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今週末見るべき映画「ガーンジー島の読書会の秘密」

――1946年、第二次世界大戦後のイギリス。ロンドンに住む、若き女流作家ジュリエットが、かつてドイツに占領されていたガーンジー島での、ある読書会を取材するべく、島を訪ねる。読書会のメンバーに取材を続けるうちに、ジュリエットは、ある秘密を知ることになる。

 (2019年8月29日「二井サイト」公開)

1940年、ドイツが占領しているガーンジー島で、5人の酔っぱらいが、ドイツ軍の検問を受けている。

 1946年のロンドン。まだ若い女性作家アシュトン・ジュリエット(リリー・ジェームズ)は、見知らぬ人から、一通の手紙を受け取る。差出人は、かつてジュリエットが手放したチャールズ・ラムの『エリア随筆』を入手した、ガーンジー島に住む男性ドーシー・アダムズ(ミキール・ハースマン)だ。

 手紙によると、ガーンジー島は、第二次世界大戦で、ドイツに占領され、戦後なお、書店は復活していない。「読書とポテトピールパイの会」という読書会のメンバーで、チャールズ・ラムの書いた『シェイクスピア物語』を入手したい、ついては、ロンドンの本屋の住所を教えて欲しい、とのこと。

 映画「ガーンジー島の読書会の秘密」(キノフィルムズ、木下グループ配給)は、チャールズ・ラムの随筆集に端を発し、ガーンジー島で開催されている、ある読書会の取材をする女性作家のドラマと、とりあえずは言えるだろう。

ガーンジー島で読書会が開催されている。しかも、ポテトピールパイの会、とある。興味をもったジュリエットは、さっそく、返事を書く。

 「お金に困って泣く泣く手放した本。本には帰巣本能があって、ふさわしい読者にたどり着くかしら」と。さらに、ジュリエットは、『シェイクスピア物語』をプレゼントする代わりに、「もっと読書会のことを教えて欲しい」と書く。

 ジュリエットは、知り合いの編集者シドニー・スターク(マシュー・グード)から、「タイムズ」に掲載する、読書をテーマにしたエッセイを依頼されていて、ガーンジー島の読書会のことを書こうと決める。

ドーシーの手紙は、ますますジュリエットの興味をひく。

 1940年、ガーンジー島は、イギリスの領土では唯一、ドイツ軍に占領されていた。ドーシーの説明によると、家畜は没収、郵便や電信もストップ、島のおとなたちは、ひたすら、飢えていた。

 そんななか、エリザベス(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)が主催するパーティが、アメリア(ペネロープ・ウィルトン)の家で開かれる。アメリアは、隠していた豚を調理し、近所の人たちで食べようというわけである。アイソラは自家製のジン、郵便局長のエベン・ラムジー(トム・コートネイ)がポテトの皮だけで作ったポテトピールパイを持ち寄る。みんなは、すっかり酔っぱらってしまい、その帰途、ドイツ軍の検問にひっかかる。

 占領しているドイツ軍は、統治のモデルとして、文化を奨励している。エリザベスが、とっさの機転で、「読書会」と言ってしまう。届け出がない、届けを出すようにとドイツ軍。やむを得ず、読書会をでっちあげ、届けを出し、みんなで読んだ本の感想を語り合う会が成立する。

 ドーシーの手紙で、ますますジュリエットの興味が増す。ジュリエットは、「みんなに会いたい」との手紙を送る。ドーシーからの返事が届かないうちに、ジュリエットは、ガーンジー島に向かう。

 アメリカ人のマーク・レイノルズ(グレン・パウエル)が、見送りにやってきて、ジュリエットに高価そうな指輪を贈り、プロポーズする。なんだか、これから始まるラブ・ストーリーの予感がしなくもない。

ところが、ドラマは、俄然、ミステリータッチとなる。ジュリエットは、ガーンジー島で、いろんな人たちの秘密に向き合うことになる。創設者のエリザベスには会えない。「タイムズ」に書きたいと言えば、断られる。読書会のメンバーは、それぞれ、いろんな秘密を抱えているようで、ジュリエットは、ドーシーに島を案内されながらも、ますます、ガーンジー島の読書会の秘密に魅せられていく。

 なかなか、凝った作りの映画と思う。原作は、メアリー・アン・シェイファーと、姪にあたるアニー・バロウズの共著になる書簡体の小説。メアリーは、図書館の司書、書店員、編集者などをしながら、本書を執筆するが、完成を前に亡くなり、姪のアニーが後を継いで、小説を完成させる。すでに、日本でも翻訳(イースト・プレス 木村博江 訳)が出ているので、ぜひ、ご一読ください。

本や手紙が、さまざまな人生の転換点を紡いでいく。いまはもう、じっくりと本を読み、手紙を書く機会は少ないけれど、占領下にあるガーンジー島の住民にとっては、偶然に成立した読書会とはいえ、本とつきあい、手紙を書くことは、生きる証だったに違いない。

 ガーンジー島は、いろんな素材のセーターで有名だ。漁業民が、暗闇でも間違って着ることのないよう、前後の区別がない。ドーシーの着るセーターを見れば、なるほどと思う。

 ドーシーを演じたミキール・ハースマン、マークを演じたグレン・パウエル以外の主要キャストは、すべてイギリス勢で固める。ポテトピールパイを焼いたエベンを、トム・コートネイが演じている。

 トニー・リチャードソン監督の「長距離ランナーの孤独」以来のファンだが、最近でも、「リスボンに誘われて」や、「さざなみ」でも、渋い、闊達な演技を披露、いい俳優だなあと思う。監督は、大ヒットした「フォー・ウェディング」のマイク・ニューエル。

 監督の狙いは、どこか。ドーシーの手紙が、ジュリエットの人生を変えたように、手紙にはそれだけの力がある。本を読み、感想を他者に伝えることで、過酷な現実に立ち向かえることがある。また人は、とにもかくにも、他者に理解されたいと願う。こういった人物を、マイク・ニューウェルは、きめ細かく、丁寧に掬いとっていく。 

 マイク・ニューウェル作品で、いちばん好きなのは、アル・パチーノとジョニー・デップが主演し、マフィアへの囮捜査を描いた「フェイク」で、理解されたいと願う心情が、現実に裏切られていく。また、「ハリー・ポッターと炎のゴブレット」など、マイク・ニューエル作品のジャンル、テーマは幅広い。

ジュリエットが、ほぼ、ガーンジー島の秘密を解明したとき、さわやかで、強靱なメッセージが待ち受けている。これまた、監督の職人芸か。

 映画から学ぶこと多々。「ガーンジー島の読書会の秘密」を見て、すべての秘密、謎が判明した瞬間、もっと本を読み、ふと、愛する人たちに、近況を伝える手紙を書こうかなと思う。そして、やはり、人と人が戦うことなどは、まっぴら御免だとも。

☆2019年8月30日(金)~ TOHOシネマズ シャンテ ほか 全国ロードショー

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