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今週末見るべき映画「ラスト・ムービースター」

――ひたすら、懐かしく、楽しく、そして、切ない。そして、後味が爽やか。バート・レイノルズ扮する、かつてのアクション映画の大スター、ヴィック・エドワーズが、「ナッシュビル国際映画祭」での回顧上映と、特別功労賞を受けるべく、生まれ故郷近くのナッシュビルに出かけていく。

(2019年9月5日「二井サイト」公開)

バート・レイノルズは、間違いなく大スターだろう。1978年から1982年にかけて、4年連続、ハリウッドで最も興行収入をあげた俳優だ。その頃、見た映画が、ロバート・アルドリッチ監督の傑作「ロンゲスト・ヤード」であり、ハル・ニーダム監督の「トランザム7000」「キヤノンボール」だ。

 昨年、2018年9月6日に、バート・レイノルズは82歳で亡くなる。死後、ちょうど1年後に公開される「ラスト・ムービースター」(ブロードウェイ配給)は、まるで、バート・レイノルズの晩年をそのまま掬いとったような設定だ。

 アクション映画のかつての大スター、ヴィック・エドワーズ(バート・レイノルズ)は、ハリウッドの豪邸で、老いた犬と暮らしている。犬が亡くなり、落ち込むヴィック。

 そんなヴィックに、聞いたことのないようなナッシュビル国際映画祭から、招待状が舞い込む。映画祭では、ヴィックの出た映画の回顧上映があり、特別功労賞を授けたい、とある。今度で第4回、過去に功労賞を受けたのは、ロバート・デ・ニーロ、ジャック・ニコルソン、クリント・イーストウッドだという。

 ヴィックは、俳優仲間の友人、ソニー(チェヴィー・チェイス)に相談する。「歴代の受賞者を見ろ」とソニー。ヴィックは出かける決心を固める。

ところが、届いた飛行機の席はエコノミー。不審に思いながらも、ヴィックはナッシュビル空港に着くが、迎えは来ていない。

 遅れてやってきたのは、おんぼろの車に乗った若い女性のリル(アリエル・ウィンター)だ。ピアスに入れ墨、小太りで、露出度の高い格好だ。リルは、ボーイフレンドともめているらしく、ケータイを手ばなさない。しかも、ヴィックが何者か、全く興味がない様子だ。

 案内されたホテルは、いかにも安宿で、ヴィックの機嫌は、悪くなる一方。夜、案内された映画祭の会場は、どこにでもあるパブではないか。主催者は、ヴィックを迎えに来たリルの兄、ダグ・マクドゥーガル(クラーク・デューク)で、会場のパブの経営者だ。映画祭といってもピンからキリまである。ここは、いわば、ダグたちの仲間の映画オタクが集まっての、ささやかな映画祭だった。リルが送迎の運転手をするのも、ひたすら、経費を節約するためだろう。

 「招待に応じたバカはあなただけよ」と、リルから聞かされたヴィックは、パブでウィスキーをがぶ呑みし、ダグたちに食ってかかる。表彰式は、2日後である。ヴィックはもう、ハリウッドに戻る決意をしたようだ。

 翌朝、ヴィックは迎えに来たリルに、空港行きを命じる。途中、ヴィックは、突如、テネシー州のノックスビルに立ち寄るよう、指示する。ノックスビルは、ヴィックの生まれ故郷だ。「空港ではないのか」と不満をもらすリルだが、「週末までの送迎だろう」とヴィック。

ヴィックの脳裏に、過去の栄光の日々がよぎる。バート・レイノルズの現実と、フィクションで描かれるヴィックの現実が、見事に交差する。ヴィックは、どうしても、立ち寄りたいところがあるらしい。親子ほども世代の離れた男女の、小さな旅が始まる。

 ほんの3日間ほどの、老俳優ヴィックと若い女性リルとのロードムービーの体裁だが、やがてお互いが、大きな変化を遂げていく。リルは、大スターだったヴィックのことを知り、ヴィックは、どうしてもしておかなければならないことをやり遂げようとする。

 映画祭は、最終日。特別功労賞を受ける俳優は、今年も現れないのだろうか。

ヴィックとリルの掛け合いが、際だって見事。なにより、懐かしさ、楽しさ、切なさ、爽やかさを感じさせる演出に、しびれる。過去の映像に見入る若者たちや、セリフの端々から伝わってくる、作り手の映画への愛は、半端ではない。バート・レイノルズの出演が決まっていたクエンティン・タランティーノ監督の話題の映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」に負けないくらい。

 脚本、監督は、「デトロイト・ロック・シティ」を撮ったアダム・リフキンである。人生を3幕のドラマに例えると、1幕で成功をおさめた主人公が、2幕で没落、不幸になる。だが、まだ3幕が残っている。残された第3幕目の人生をどう生きるのかと、アダム・リフキンは問いかけているよう。

 全盛時、バート・レイノルズは、ジェームズ・ボンドや、ハン・ソロ役などのオファーを断っている。1997年、ポール・トーマス・アンダーソン監督の「ブギーナイツ」では、ポルノ映画の監督役を力演、大スター復活かと思わせたが、晩年はヒット作に恵まれなかったようだ。

最後の主演作である。かつてのバート・レイノルズを知るファンなら、涙なくしては見られないだろう。また、バート・レイノルズへの思い入れのない向きには、「ラスト・ムービースター」をきっかけに、多くの出演作を見られたい。

 初秋、多くの傑作佳作が公開になる。そんななか、強くプッシュしたい一本。

☆ 2019年9月6日(金)~ 新宿シネマカリテほか 全国ロードショー

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