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今週末見るべき映画「モリーズ・ゲーム」

――実話もとに、巨万の富築いたポーカー・サロン主催女性の栄光と転落描く

 実在の人物を描き、鮮やかでスピーディ。マシンガンのようなセリフが奔流する。

 現在と過去が、巧みに入り交じる。圧倒的な情報量。

 あっという間の2時間20分。ハンパではない、とびきりのおもしろさ。

 「モリーズ・ゲーム」(キノフィルムズ、木下グループ配給)は、大金を賭けたセレブたちの、瀟洒なポーカー・ルームの現場に、観客を誘う。

 ポーカー・サロンを主催し、若くして大金を手にしたのは、モリー・ブルーム(ジェシカ・チャスティン)という、まだ若い女性だ。 モリー・ブルームは、実在した元スキーのモーグルの選手。父親(ケヴィン・コスナー)は臨床心理学の教授で、頭のいいモリーは、コロラド大学を首席で卒業。得意のスキーで金メダルをとり、ロースクールを出て、会社経営を夢見ていた。

 2002年、ソルトレークシティで開催される冬季オリンピックの予選で、モリーは転倒、骨折する。 2014年。モリーは、自身の回顧録を出版する。直後、FBIから違法賭博の運営容疑で逮捕される。

  2002年。スキーの選手生命を断たれたモリーは、ロースクール入学を前に、ロサンゼルスで一年間の休暇をとる。休暇とはいえ、何もしないわけにはいかない。モリーは、ハリウッドのクラブで、ウエイトレスとして働いている。

 ここで知り合ったのが不動産業を営むディーン・キース(ジェレミー・ストロング)で、モリーは、ディーンの主催するポーカーのアシスタントを務めることになる。 週一回、参加費は1万ドル。べらぼうな金額だ。

 メンバーには、ハリウッドの映画スター、プレイヤーX(マイケル・セラ)をはじめ、有名な映画監督、ラッパー、プロボクサー、実業家といったセレブばかり。 ディーンと袂を分かったモリーは、プレイヤーXらの協力を得て、独自に、高級ホテル、フォーシーズンズで、「モリーズ・ルーム」を主催することになる。

 やがて、「モリーズ・ルーム」は、場所をニューヨークに移し、一晩で100万ドルもの金が動くほどに、成長を遂げていく。 過去のモリーの栄華と、現在のFBIとの駆け引きが交錯する。モリーは、弁護士のチャーリー・ジャフィ(イドリス・エルバ)の協力を得て、FBIと渡り合う。

 モリーの自叙伝をもとに、本人にも取材を重ね、脚本を書き、監督したのは、アーロン・ソーキンである。デヴィッド・フィンチャー監督の「ソーシャル・ネットワーク」では、Facebookの創始者マーク・ザッカーバーグらを描き、ベネット・ミラー監督の「マネーボール」では、大リーグのオークランド・アスレチックスのゼネラルマネージャー、ビリー・ビーンを描き、ダニー・ボイル監督の「スティーブ・ジョブズ」では、アップルの創業者スティーブ・ジョブズを描いた脚本家である。 いずれも、実在する人物を、映画で描いて、決してあきさせない。

 アーロン・ソーキンは、周囲のあらゆる権力、理不尽さに対峙して、自らの信念を貫き通し、とてもふつうの人には出来ないことをやり遂げた女性像の提示に成功したと思う。初監督とはいえ、手だれの演出ぶりだ。

 思えば、優れた脚本家だが、初めての監督が、「ダンス・ウィズ・ウルブズ」でアカデミー賞の作品賞、監督賞などを受けたケヴィン・コスナーを演出することになる。アーロン・ソーキンの気後れに、ケヴィン・コスナーが監督としての知識を惜しみなく提供したそうだ。出番は少しだが、後半の父娘のやりとりに、ケヴィン・コスナーの貫禄が漂う。

 モリーに扮したジェシカ・ジャスティンが、圧倒的にいい。若いころから中年までのモリーを、巧みに演じ分ける。テレンス・マリック監督の「ツリー・オブ・ライフ」以降、公開作品は、すべて追いかけている。意外に、華奢ではない。豊満な胸元、露出の多い衣装に、セレブ男性たちの視線が注ぐが、色恋沙汰は、いっさい、なし。だからこそ、巨万の富を築いたのだろう。

 「モリーズ・ルーム」の運営にあたっては、チップのみの合法から、運営料を徴収する違法に手を染めることになるが、凛とした潔さ、知性、ユーモアが、男を寄せつけない。 事件は訴訟になり、ニュースになる。セレブたちの名前が出る。映画では、ハリウッド・スターのプレイヤーXとして登場するが、実名では、トビー・マグワイア、レオナルド・ディカプリオ、マット・デイモン、ベン・アフレックら、らしい。

 この5月10日、映画の公開にあわせて、自叙伝の翻訳が出る。「モリーズ・ゲーム」(ハーパーBOOKS 越智睦 訳)だ。すぐ注文した。

 蛇足だが、ポーカーというカードゲームを知らない人に、この映画はおもしろいかどうか。ポーカーのことを、くわしく知らなくても、スリーカードとフルハウスのどちらが強いか、また、同じスリーカード、フルハウスでも、カードの種類によって、どちらが上位かくらいを知っていると、とてつもなくおもしろい映画であることは保証できる。

  ダニー・ケイが、コルネット奏者のレッド・ニコルズを演じた「五つの銅貨」に、有名なポーカーのシーンがある。ほかでは、「シンシナティ・キッド」、「ラッキー・ユー」、「007カジノ・ロワイヤル」、「スティング」などなど、ポーカーの出てくる映画は多い。ご参考までに。

☆2018年5月11日(金)~ TOHOシネマズ日比谷他全国ロードショー

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