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今週末見るべき映画「パリの調香師 しあわせの香りを探して」

 ――舞台はパリ。人づきあいの苦手な、天才的調香師の女性アンヌ・ヴァルベルグが、一時、嗅覚が衰える。なんとか回復したものの、香水を作る仕事ではない。幼い娘の親権争いで悩む中年男の運転手ギョーム・ファーヴルが、アンヌと出会う。性格は大いに異なるが、互いに欠けている部分を補いあい、万事うまくいくかと思われるのだが……。

                  (2021年1月13日「二井サイト」公開)


 「パリの調香師 しあわせの香りを探して」(アット エンタテインメント配給)は、過去の優れた映画の結構を持つ。「ドライビング Miss デイジー」「最強のふたり」「グリーンブック」を彷彿とさせる運びだ。


 運転手としては違反多々、失職寸前のギョーム(グレゴリー・モンテル)は、幼い娘レア(ゼリー・リクソン)をめぐって、別居中の妻と親権を争っている。ワンルーム住まいのギョームは、親権争いには不利で、広いアパートが必要になる。なんとか、仕事を回されたのが、アンヌ(エマニュエル・ダヴォス)の送迎の仕事だ。


 アンヌは、迎えにきたギョームの吸っているタバコの銘柄や葉の産地まで言い当てる。「ウインストン、バージニアね」と。

 かつての天才的な調香師アンヌは、多忙がかさみ、一時、嗅覚が衰えたことがあり、いまは、香水の調香から身を引いている。いささか傲慢な態度で、ギョームに運転以外の雑事を、さも当然のように命じる。


 アンヌが香水の調香を手掛けていたときのエージェント、ジャンヌ(ポリ―ヌ・ムーレン)からの依頼は、洞窟の匂いを特定しようという仕事だ。観光客のために洞窟を複製し、その匂いまで再現しようというわけだ。ふたりは洞窟に向かう。


 なんとか仕事を終え、アンヌのアパートに着いたとき、アンヌのバッグがひったくりにあう。とっさにギョームは犯人に飛びかかり、バッグを取り戻す。感謝されるものと思ったギョームにアンヌは言う。「飛びかかるなんて、どうかしている」と。

 当初、仕事をなくすのを恐れたギョームは、おとなしくアンヌのわがままに付き合っていたが、アンヌの態度に切れてしまう。「ありがとうや、お願いの言葉もなく、命令ばかりだ」とギョーム。


 もはや仕事にありつけないと思ったギョームは、上司のアルセーヌ(ギュスタヴ・ケルヴェン)に言い訳をしようとするが、なんと、アンヌからまたの指名が届いている。アンヌのアパートに着いたギョームは、車ではなく、タクシーに同乗し、列車でアルザスに向かうことになる。今度の仕事は、高級なバッグの皮からの不快な匂いを消すというものだ。しかも期間は、たった一週間。ギョームは掛け合う。「倍額ならやろう」と。アンヌは、ギョームの交渉力に驚く。


 アンヌの調合の現場にいたギョームは、いろんな香りを嗅ぐ。アンヌは、ギョームにも優れた嗅覚のあることを見抜く。やがて、アンヌは自らの過去をギョームに話し始める。ディオールの名品、ジャドールは自分が作ったことなどを。


 また、次の仕事が舞い込む。今度は、工場から出る煙の悪臭を防ぐという仕事だ。また、香水の仕事を再開したいアンヌは、ジャンヌの説得もあって、渋々、引き受けることになる。ところが、アンヌにとっても、ギョームにとっても、やっかいなことが起きる。はたして、アンヌとギョームに、しあわせの香りが漂うことになるのだろうか。


 アンヌは、「ドライビング Miss デイジー」のデイジー(ジェシカ・タンディ)であり、ギョームは、ホーク(モーガン・フリーマン)である。また、アンヌは、「最強のふたり」のフィリップ(フランソワ・クリュゼ)であり、ギョームは、ドリス(オマール・シー)だ。さらに、アンヌは、「グリーンブック」のシャーリー(マハーシャラ・アリ)であり、ギョームは、トニー(ヴィゴ・モーテンセン)である。しかも、ホーク、ドリス、トニーは、車を運転する役どころだ。

 「パリの調香師 しあわせの香りを探して」は、先行する傑作3作品にひけはとらない。

 もとより、完璧な人間など、存在しないと思う。たがいに欠落したところを補い、埋めあうことが、しあわせに繋がる。


 女性が身にまとう香水などには、ほとんど興味はないが、映画からは、品のいい香りが湧きたつよう。ギョームの言動が中心となるコメディでもあるが、そこはフランスの映画。人生半ばを生きる男女の機微を、小粋に捉える。


 ギョームを演じたグレゴリー・モンテルを映画で見たのは初めてだが、いかつい風を装いながらも、人間味あふれる役どころを力演。アンヌ役のエマニュエル・ドヴォスは、「ココ・アヴァン・シャネル」や「ヴィオレットーある作家の肖像」などでお馴染みだろう。

 脚本、監督はグレゴリー・マーニュ。本作が長編2作目だが、日常のさりげない会話や、ふたりの性格、ささいな喜怒哀楽を、サラリと盛り込む手腕に、冴えをみせる。


 香水には、その濃度によって、4種類ほどあるらしいが、映画は、2番目に濃い、オードパルファムあたりだろうか。ほどよい香りを嗅ぎ分ける脳と鼻。あらまほしい。



☆ 2021年1月15日(金)~ Bunkamura ル・シネマ、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか 全国順次ロードショー!


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