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年始め見るべき映画(その2)「ハッピー・バースデー 家族のいる時間」

 ――フランスの南西部の邸宅が舞台。夏のある日、カトリーヌ・ドヌーヴ扮するアンドレアの70歳のバースデーを祝うために、家族や知り合いが集まる。映画「ハッピー・バースデー 家族のいる時間」(彩プロ、東京テアトル、STAR CHANNEL MOVIES配給)の幕が開く。


 ここに、3年前に家を飛び出したままの長女のクレールが、突然、戻ってくる。家族の誰もが、クレールに声をかけていない。いささか情緒不安定のクレールの登場で、アンドレアの誕生会は大混乱に陥る。


 やがて、家族のさまざまな秘密が明るみに出る。主な登場人物は12名。見事なアンサンブルの群集劇で、悲喜交々の家族の一日が、きめ細かく描かれる。


                (二井サイト・ブログ 2021年1月5日公開)


 今日はアンドレア(カトリーヌ・ドヌーヴ)の70歳の誕生日だ。


 長男ヴァンサン(セドリック・カーン)と妻マリー(レティシア・コロンバニ)には、2人の幼い男の子がいて、誕生会の準備を始めている。


 次男のロマン(ヴァンサン・マケーニュ)は、映画監督志望だが、まるで売れていない。アーカイブと称して、誕生会のドキュメンタリーをカメラに収めようとしている。ロマンは、アルゼンチン人のガールフレンドのロジータを招いている。


 アンドレアの孫で、クレール(エマニュエル・ヴェルコ)の娘エマは、ボーイフレンドのジュリアンと一緒だ。エマは幼い従弟2人と協力して、アンドレアのために、ある寸劇の練習をしている。合計10名で、まもなくアンドレアの誕生会が始まろうとしている。


 突然、電話が入る。なんと、3年間も家を出たままで音信不通だったクレールから電話がかかってくる。「近くまできたから、迎えに来て欲しい」と。雨の中、ロマンがヴァンサンの車を借りて、迎えに行く。

 当然、アンドレア家は大騒ぎのはずなのに、大歓迎のアンドレアはともかく、なぜか、みんな、戸惑ってはいるが、どこか冷静を装っているようである。そして、観客の予想通り、クレールの発言、行動が、気まずい方向に向かっていく。


 いったいに、さまざまな家族には、それぞれ隠し事があり、額の多い少ないの程度の差はあれ、微妙に金銭問題が絡むものだ。アンドレア家もまたしかり。クレールをめぐっての家族の確執があり、3代にわたる母娘の葛藤がある。さらに、姉兄弟の関係性も、短い時間のちょっとした会話で、鮮やかに提出される。


 深刻きわまりないかといえば、さにあらず。よくあることと爆笑を誘うシーンも数々。この家族にもさまざまな問題があって、大ごとにもなれば、すんなり解決することだってある。演劇でいう「三一致の法則」を踏まえた設定、展開で、アンドレア家の一日の出来事が提示される。


 こまかな筋書きを紹介したいのだが、なあに、ご覧になれば、それぞれ、思い当たるふしに出会うはず。そして思われるに違いない。家族とは、こういうものなんだ、と。


 とにもかくにも、俳優たちの演技が抜群にいい。ゴッドマザーのようなアンドレアに扮したカトリーヌ・ドヌーヴが重厚。


 繊細で気の利いた長男ヴァンサン役は、本作の脚本、監督のセドリック・カーンだ。かつて、「チャーリーとパパの飛行機」を撮って、人間描写に卓越な手腕を見せた映画作家であり、俳優でもある。

 金がないせいか、周囲になにかと迷惑をかける次男ロマン役は、やはり映画監督でもあるヴァンサン・マケーニュ。ギョーム・ブラック監督の「やさしい人」以来、ひいきにしている男優だ。

 お騒がせ人間の長女クレールに扮したエマニュエル・ベルコもまた、映画監督である。この3人の、俳優にして監督の重厚な演技に、ぜひ注目されたい。


 驚いたのは、「彼女たちの部屋」や「三つ編み」などを書いた作家のレティシア・コロンバニが、医者なのに控えめな、ヴァンサンの妻役を演じている。もはや、大作家なのに、余裕たっぷりな演技で、画面を占領する。


 使われている音楽が、なんともすてきだ。3度ほど、ムルージの唄う「愛、愛、愛」が出てくる。映画での姉と弟の関係性を象徴して、字幕の歌詞にこころ震える。また、フランソワーズ・アルディの唄う「バラのほほえみ」も、絶好のシーンで出てくる。


 悲劇喜劇が渾然一体、いかにものフランスの映画。セドリック・カーンの、人間への深い観察力と表現に、ほどよく酔った気分になる。なおかつ、主な登場人物全員に見せ場を設ける演出力に唸る。アンドレアの孫3人の演じる寸劇にも、家族の本質がひそむ。「どんな家族でも、やっぱり愛おしい。おかしくもほろ苦く、切なくもあたたかい」と、映画の資料にある通り。


 新年早々、自らの家族のありように思いを馳せる。いいことと思う。



☆ 2021年1月8日(金)~ YEBISU GARDEN CINEMAほか 全国順次公開

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