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今週末見るべき映画「29歳問題」

――29歳、香港のキャリアウーマン。仕事は順調、恋人もいる。一見、何も問題がないように見えるのだが・・・

香港、2005年。

 29歳のクリスティ(クリッシー・チャウ)は、化粧品会社のマーケティング担当。仕事は順調で、出世もする。当然、恋人もいる。まるで輝いているような日々に見える。ところが・・・。

 「29歳問題」(ザジフィルムズ、ポリゴンマジック配給)のヒロイン、クリスティは、ほどほどの美人、同世代の女子会で、友人の一言が気になる。「もう30歳、結婚するか別れるか、決めるべきよ」と。

 一人暮らしのクリスティは、そんなことは言われなくても分かっている。仕事が急に忙しくなる。認知症が始まっている父親からの連絡が頻繁になる。恋人のチーホウ(ベン・ヨン)との仲も、徐々にぎくしゃくしたものになっていく。

 ある日突然、大家から退去勧告を受ける。しかも、退去予定の前日には、大事な仕事のイベントがある。新しいアパートを探す時間がない。イベントの当日、父親が大きな事故にあう。もう、なにもかもがうまく運ばない。

大家の手配した、とりあえずの仮住まいは、クリスティと同世代で、パリに旅行中のティンロ(ジョイス・チェン)の部屋。ティンロは、ビデオ・メッセージで、クリスティを迎える。男性とはあまり縁がなさそうだが、明るくて元気なティンロは、大好きなレスリー・チャンのレコードを持って、部屋の案内をしてくれる。

 クリスティは、ティンロの「自伝風の日記」を見つける。同じ生年月日だと分かる。ティンロはいつも前向き。映画や音楽が大好き、まわりの人たちもいい人ばかり。クリスティは、自分の今までの人生と重ねあわせて、ティンロの日常が、楽しく、新鮮なものに思えてくる。

 クリスティの父が亡くなる。30歳になろうとしているクリスティは、自らを振り返り、これまでの人生を見つめ直そうとする。

 「バートン・フィンク」や、「ファーゴ」、「ノーカントリー」などの傑作を撮ったコーエン兄弟の一連の映画では、ささいなことがきっかけで、なにもかもがうまくいかなくなる状況が活写される。それを彷彿させるが、幸せそのものに見えるクリスティにも、世の難儀が相次いで襲ってくる。

 これは30歳を目前にした世代だけの話ではない。男女ともども、40歳、50歳、60歳など、どの世代でも、ささいなことから、それまでの幸せが、幸せでなくなる。勤め先の不況、突然の病気、親の死、事故などなど、暮らしぶりの激変は、男女問わず、どの世代でも起こりうる。

 映画のもとは、2005年に、1975年生まれのキーレン・パンが演出、主演したひとり芝居である。12年後、おなじキーレン・パンが映画化する。きめ細かい女性の視点が、30歳になろうとする女性の心理を詳細に描いて、あきさせない。

 80年代から90年代にかけての香港映画や、広東語による音楽が、香港の若者を席巻したころである。映画のなかに、当時の若者文化が、象徴的に取り入れられている。 クリスティが、友人の誕生祝いにプレゼントするのが、ウォン・カーウァイ監督の直筆のサインの入った「花様年華」のポスター。レスリー・チャンの大ファンのティンロは、なぜパリに行ったのか。レスリー・チャンの音楽ドラマ「日没のパリ」が大好きだったから。

 映画のラストでは、レスリー・チャンの「ゼロから開始」が唄われる。レオン・ライの物真似で、後にクリスティの恋人になるチーホウが、「ごめん、愛してる」を唄う。そのほか、香港フリークには、頷き、笑い、涙する、香港ネタが満載。

 クリスティに扮したクリッシー・チャウは、「霊幻戦士 キョンシーズ」や、「西遊記~はじまりのはじまり~」に出ていた香港の人気スター。ティンロ役のジョイス・チェンは、両親とも映画俳優のサラブレッド。映画で見るのは初めてだが、人生の困難を笑って乗り越える力演ぶりに好感が持てる。

 香港を舞台にしたアラサー女子の映画ではあるが、笑いと涙のうちに「人生を見つめ直す」という一点で、映画「29歳問題」は、永遠を勝ち取ったと思う。アラサー女子はもちろん、あらゆる世代が、楽しく、しんみり、自らの人生を見つめ直す縁になればいいのだが。

☆2018年5月19日(土)~ YEBISU GARDEN CINEMA他 全国順次ロードショー

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