今週末見るべき映画「ルイ14世の死」
――ヴェルサイユ宮殿を建造した「太陽王」、ルイ14世。その死までの数週間を、子細に描いて、あきない。
かなり昔、ヨーロッパ旅行で、ヴェルサイユ宮殿に行った。パリの西南約22キロ、バスで30分ほど。とてつもなく広い庭園に、大きな噴水がある。宮殿には礼拝堂、オペラ劇場まであるらしい。驚くほどの大きさだ。
今はどうだか知らないが、ガイドが、この先、トイレがない、という。あわてて、トイレをすませて、見て回る。とても、全部は見ていられない。それほど、広い。
1715年、ヴェルサイユ宮殿を建造した、「太陽王」ことルイ14世が亡くなる。死の3週間ほど前から死ぬまでを描いたのが「ルイ14世の死」(ムヴィオラ配給)だ。
1715年8月。散歩から戻ったルイ14世(ジャン=ピエール・レオ)は、左足に鋭い痛みを感じる。侍医のファゴン(パトリック・ダスマサオ)は、座骨神経の痛みと診断する。夜になると痛みは増し、熱が出る。食欲がなくなり、体は衰弱の一途をたどる。
宴席があって、貴族を前にして、ルイ14世は、なんとか、ビスケットを食べる。左足の痛みはさらにひどくなる。
パリから4人の医者がやってきて、ルイ14世の左足の変色に危機感をつのらせる。やがて、食べることができないほどになる。
ルイ14世の左足は、あきらかにえそだが、だれも、その足を切断することはできない。
マントネン夫人(イレーヌ・シルヴァーニ)の発案で、イタリアから音楽家を招いての演奏会が開かれるが、症状は悪くなるばかり。
ルイ14世は、曾孫にあたるルイ15世を寝室に呼んで、言う。「戦いに溺れないよう、隣人との和平を心がけよ」と。
マルセイユ出身の怪しげな医者ブルアン(マルク・スジーニ)が現れ、命を救うことが出来ると言うが、もう、ルイ14世の左足は真っ黒で、えそは末期症状である。やがて、ルイ14世は、昏睡状態となる。
治世72年。王権神授説による絶対王政である。「朕は国家なり」という言葉を残した王様でも、所詮は人間である。死ぬときは、みんな、同じ。ルイ14世をとりまく多くの人物が出てくるが、さしたるドラマは皆無。誰も、本気でルイ14世を気遣わない。
映画の基になったのは、宮廷の様子を詳細に綴ったサン・シモンの「回想録」と、宮廷に仕えていたダンジョーの「覚書き、別名ルイ14世宮廷日誌」である。スペインの映画監督で、「21世紀の前衛」と言われているアルベルト・セラが、共同で脚本を書き、演出する。
アルベルト・セラは、何本か、映画を撮っているが、一般公開は、この「ルイ14世の死」が日本で初となる。絶大なる権力への悪意も感じないわけではないが、つまりは諸行無常。単に、無常で終わらせるだけではない。ラストシーンの衝撃が、しばらく、つきまとう。無常の後の衝撃。「前衛」との形容にふさわしい幕切れだ。
1944年生まれで、1959年、フランソワ・トリュフォー監督の「大人は判ってくれない」でデビューしたジャン=ピエール・レオが、ルイ14世に扮する。このところ、アキ・カウリスマキ監督の「ル・アーヴルの靴みがき」や、諏訪敦彦監督の「ライオンは今夜死ぬ」でも元気な姿を見た。「大人は判ってくれない」で、12歳のアントワーヌ・ドワネルが初めて海を見た時の表情を、70歳を超えたいまなお、ジャン=ピエール・レオは、持ち続けている。もはや、伝説の名優だ。
「ルイ14世の死」の公開を記念して、アルベルト・セラ監督の4作品の特集上映があったようだ。監督お気に入りの作品も上映された。どのような作品が好みかで、アルベルト・セラは、どのような映画作家かの見当がつく。
上映されたのは、ニコラス・レイの「孤独な場所で」、アレクサンドル・ソクーロフの「牡牛座 レーニンの肖像」、ルイス・ブニュエルの「砂漠のシモン」と「アンダルシアの犬」、ラヴ・ディアスの「立ち去った女」、グラウベル・ローシャの「狂乱の大地」の5作品。
アルベルト・セラは、1975年生まれ。まだまだ、若い。いっそこのまま、前衛を貫き通してほしい。
☆2018年5月26日(土)~ シアター・イメージフォーラムにて公開