今週末見るべき映画「エヴァ」
――新進作家で美男のベルトランは、盗作の戯曲でのし上がっていくが、エヴァという娼婦に出会い、魅せられていく。それが人生の破滅とも知らないまま。
昔、ジャンヌ・モロー主演、ジョゼフ・ロージー監督の「エヴァの匂い」というフランス映画があった。ローマの娼婦エヴァの興味は、金だけ。カジノでは、金のありそうな男だけに近づく。
処女作が大ヒット、新進作家ティヴィアンが、ヴェニスで出会ったエヴァに魅せられるが、翻弄されてしまう。もっとも、ティヴィアンの作品とて、自分の書いたものではない。
ともかく、エヴァは気まぐれ、残酷。女性の怖さが、ジャンヌ・モローの熱演もあって、ズシリと伝わってきた。
原作は、イギリスのジェームズ・ハドリー・チェイスの小説「悪女イブ」(東京創元社・小西宏 訳)である。舞台はハリウッド。
クライブ・サーストンは、他人の戯曲を自作として発表し、一躍、脚光を浴びる。栄光を目前にしたクライブは、悪女イブと知り合ったことで、転落、破滅の道をたどる。
このほど、同じ原作をやはり同じフランスで映画化したのが、ブノワ・ジャコー監督の「エヴァ」(ファインフィルムズ配給)だ。
エヴァ役は、いまをときめくイザベル・ユペール。
パリに住む若い作家ベルトラン(ギャスパー・ウリエル)は、イギリスの老作家に金で雇われ、老作家の身の回りの世話をしている。老作家は、バスタブで急死する。
最後に書いたコメディタッチの戯曲「合言葉」を、ベルトランは、自分の作品として上演する。これが大ヒット、たちまちベルトランの次回作に期待が集まる。
当然だが、才能のないベルトランは、書けない。2万ユーロもの出資者レジス(リシャール・ベリ)は、矢のように、次回作を催促する。
そんな折り、ベルトランの婚約者カロリーヌ(ジュリア・ロイ)が、アヌシーにある両親の別荘を、ベルトランの仕事場に提供する。アヌシーは、ベルトランの書いたとされる「合言葉」の上演される場所でもある。
猛吹雪の夜、別荘に着いたベルトランは、窓を破って、勝手に別荘に侵入したカップルと出会う。エヴァと名乗る女は、バスタブにつかっている。エヴァを見た瞬間、ベルトランは魅せられてしまう。
男を追い出したベルトランは、エヴァに接近しようとするが、ベルトランは頭を殴られ、気を失ってしまう。
後日、アヌシーのカジノで、ベルトランは、エヴァと再会する。やがて、ベルトランは、エヴァがどのような素性かを知るにつれて、ますますエヴァに魅せられていく。それが、身の破滅に繋がることなど、想像だにしないまま。
いやあ、怖い。エヴァの複雑で不可解な怖さは、半端ではない。それに引き替え、なんと男の単純さ、馬鹿さ。
女性を描いて、すぐれた冴えを見せるブノワ・ジャコーの気合いがすごい。ブノワ・ジャコーは、13歳で小説「悪女イブ」を読み、同じころ、映画監督を志したという。「イザベル・アジャーニの惑い」「シングル・ガール」「マリー・アントワネットに別れをつげて」を経て、行き着いた女性像が、「エヴァ」だろうか。オペラ「トスカ」を撮り、オペラ「ウェルテル」を演出したキャリアも活かされていると思われる。
すでに60歳代なかば。イザベル・ユペールのますますの円熟、魅力に、すっかり、虜になってしまう。当方も、単純で馬鹿な男のひとりなのだろう。
ジャンヌ・モローの「エヴァの匂い」のリメイクではない、とブノワ・ジャコー監督は言う。原作が同じ小説だから、結構は類似するが、ここは、ぜひ、映画を見比べていただきたい。ジャンヌ・モローも良し。さりとて、イザベル・ユペールもひけをとらない。
バスタブに身を沈めるエヴァ=イザベル・ユペールに、魅せられない男は、もはや、いないのではないか。実感だ。
☆2018年7月7日(土)~ ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国ロードショー