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今週末見るべき映画「タリーと私の秘密の時間」

――3人目の子どもが生まれようとしている主婦マーロのところに、完璧ともいえるベビーシッターのタリーが現れる。ところが、タリーには、ある秘密が……。

 「JUNO/ジュノ」や「マイレージ、マイライフ」で、職人肌の演出を見せたジェイソン・ライトマン監督の新作が、「タリーと私の秘密の時間」(キノフィルムズ配給)だ。

 「マイレージ、マイライフ」で、ジェイソン・ライトマンは、人間というものは、あるきっかけで、大きく変わりうることを示した。ここでも、そのテーマが、形を変えて、あざやかに提出される。

 ごひいきの女優、シャーリーズ・セロンが、主婦のマーロに扮する。お腹のなかには、3人目の子どもがいる。まるまると太っているが、その美しさは変わらない。

 マーロはこれまで、仕事、家事、育児と、そつなくこなしてきた。夫のドリュー(ロン・リヴィングストン)は、優しいけれど、ほとんど、家事、育児に協力はしない。 マーロにとって、小学生の娘サラ(リア・フランクランド)に手はかからないが、サラの弟ジョナ(アッシャー・マイルズ・フォーリカ)は、いささか情緒不安定で、心配の種だ。

 ある日、マーロは、校長から呼び出され、ジョナに家庭での専属教師を雇ってほしい、と言われてしまう。 マーロの兄クレイグ(マーク・デュプラス)が、出産祝いにと、夜だけのベビーシッターを手配すると言う。

 今まで、見知らぬ人に赤ん坊を預けたことのないマーロは、きっぱりと断るが、クレイグは、ベビーシッターの連絡先を書いたメモを、マーロに押しつける。 マーロは、女の子を出産、ミアと名付ける。マーロの家事、育児の作業がぐんと増える。夜中の授乳、オムツの交換、洗濯、食事の用意・・・。さらに、ジョナのことで、またまた学校から呼び出しがかかる。「転校してもらいたい」。思わず、マーロは校長を怒鳴りつけてしまう。

 育児に疲れはてたマーロは、夜だけのベビーシッターに連絡する。現れたのは、タリー(マッケンジー・デイヴィス)という若い女性である。マーロは、ジーンズにTシャツ姿のタリーを見て、いささか戸惑うが、タリーは、「私を頼って」と自信満々である。

 翌朝、マーロは、タリーの仕事ぶりに驚く。ここ数年、まったく掃除していなかったキッチンやリビングが、きれいになっている。タリーの仕事ぶりは完璧である。ただし、タリーは、自らのことを一切語ることなく、仕事を終えると、帰っていく。 やがて、タリーは、マーロの昔話や愚痴さえも聞いてくれ、悩み事の相談相手にまでなってくれるのだが・・・。

 タリーの登場で、ドラマは急転回する。観客は、マーロと同様、タリーの抱える秘密を知りたくなる。果たして、タリーとは、何者なのか。

 といっても、シリアスな謎解きドラマでは、ない。多くの比喩にみちたセリフは、コメディですらある。必死に家事、育児にはげむ妻とちがって、夫はのんびりとテレビゲームに興じている。世の現実をリアルに写しだしつつ、驚きの結末が用意されている。

 強いてまとめると、育児をめぐるコメディに、ミステリータッチが加わり、タリーの秘密が露わになる瞬間、まったく別のドラマがたち現れてくる、とでも言えようか。

 脚本を書いたのは、ディアブロ・コディという女性。ディアブロ・コディは、3人目の子どもの出産後、夜間にベビーシッターを雇ったという。この史実に基づいた脚本ゆえのリアリティ。多くの人に見てもらいたい映画ではあるが、ことに、子育て真っ盛りの世代にお勧めで、大いなる共感を呼ぶことと思う。

 ドラマに寄り添う音楽が、控えめながら雄弁。「007は二度死ぬ」のカバーを、ケイトリンとマディのデヴァー姉妹が演奏し、オリジナル曲の「Let You Go」を唄う。また、ザ・ジェイホークスのアルバム「トゥモロー・ザ・グリーン・グラス」に収録されている「ブルー」が、映画の前半とラスト近くで、まことに効果的に引用される。

 「ヤング≒アダルト」、「とらわれて夏」を撮り、「セッション」、「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」の製作総指揮を務めたジェイソン・ライトマンの、これもまた快作である。

☆2018年8月17日(金)~ TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

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