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今週末見るべき映画「顔たち、ところどころ」

――映画監督アニエス・ヴァルダと、写真家でアーティストのJRが、フランスのあちこちを旅する。年齢差54歳。いわば、おばあちゃんと孫の旅。出会った人たちを写真に撮り、大きく引き延ばして飾る。心がほんわかとなる。

2015年、アニエス・ヴァルダの娘ロザリーは、母親に、フランス人のJRという男性を紹介する。JRは、いろんな場所で、そこに住む人たちの写真を撮り、大きなポートレートにして貼り出すというアーティストだ。

 ふたりは、「市井の権力を持たない人たちに興味がある」という点で意気投合する。アニエスがJRに言う。「田舎に連れていく。ふたりで映画を作りましょう」と。映画「顔たち、ところどころ」(アップリンク配給)が完成する。

 映画では、アニエス87歳、JR33歳となっている。二人は、JRのスタジオ付きの大きなトラックに乗って、フランスの村々を訪ね、出会った人たちの写真を撮る。トラックにも、カメラの大きな写真が貼り付けてあって、度肝を抜く。

 かつて炭坑で働いていた老人たち。炭坑住宅に、いまはひとりで住んでいる女性。大きな農場をひとりで耕している男性。郵便配達なのに、パンや肉、ガスボンベなどを運ぶ男。港湾で出会った三人の女性。廃墟での多くの人たち……。それぞれの写真を、大きく引き伸ばして、建物やコンテナに貼り付けていく。その顔たち、表情たちは、それぞれの人生のしわが染み込んでいるようで、見事なアートと思う。

 アニエスとJRの旅は続く。廃墟の村を散策する。高名な写真家アンリ・カルティエ・ブレッソンのお墓に行く。JRの100歳になる祖母を訪ねる。ルーブル美術館では、ジャン=リュック・ゴダールが映画「はなればなれに」で示した、ルーブル美術館の最短見学記録9分43秒を塗り替えたと、喜び合う。これは、ラストへの伏線だろう。

 ふたりの会話が、掛け合い漫才のように、たまらなく微笑ましい。道中、唄ったり、笑ったり、ちょっぴり険悪になったり。絶妙の受け答えだ。

 老齢のアニエスの目は、衰えを隠せない。一方、JRはサングラスをかけたままである。これまた、ラストへの巧みな伏線だ。

 アニエスは、多くの人と出会い、写真を撮る願いが叶い、JRに感謝する。そして、そのお礼として、JRをある場所に連れていく。そこは・・・。

 「顔たち、ところどころ」の脚本、監督、ナレーション、主演は、アニエスとJRが共同で担当する。フィクションのようでもあり、ドキュメンタリーのようでもある。格別、起承転結なドラマがあるわけではないけれど、見ていて、心がときめき続ける。余計な説明がいっさいないからこそ、いいなあ、おもしろいなあ、次はどうなるのだろう、と思う。まさに至福の時間で、1時間29分。もっと長く、アニエスとJRを見ていたいと思う。

 「5時から7時までのクレオ」、「幸福」、「歌う女・歌わない女」、「冬の旅」、「百一夜」、「落穂拾い」、「アニエスの浜辺」などなど、多くの優れた劇映画、ドキュメンタリー映画を撮ったアニエスは、1928年のベルギー生まれ。今年、90歳だ。まだまだ、優れた映画が撮れそう。撮ってほしい。

☆2018年9月15日(土)~シネスイッチ銀座、新宿シネマカリテ、アップリンク渋谷にて公開

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