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今週末見るべき映画「アンダー・ザ・シルバーレイク」

――ロサンゼルスに住む青年サムは、成功を夢見ているが、家賃さえ、まともに払えない。ある日、知り合った女性サラが行方不明になる。探偵気取りのサムは、サラの捜索を続けているうちに、ある暗号の存在に気付くのだが……。

 (2018年10月10日「二井サイト」公開)

以前、見たことのある映画のシーンや、ポスター、テレビの画面など、映画にまつわるさまざまなシーンが頻出する。

 アルフレッド・ヒッチコック監督の「裏窓」や「めまい」「サイコ」。ジャック・アーノルド監督の「大アマゾンの半魚人」。ジャネット・ゲイナー主演、フランク・ボーゼイジ監督の「第七天国」。

 マリリン・モンロー主演、ジーン・ネグレスコ監督の「百万長者と結婚する方法」。ハリウッド・フォーエヴァー墓地にある、著名な映画監督や女優の墓石。後にドリス・デイ主演で映画化されたが、マリリン・モンローの死後、未完だった「女房は生きていた」。ドン・シーゲル監督の「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」などなど。

 「アンダー・ザ・シルバーレイク」(ギャガ配給)は、行方不明になった女性を捜索する青年の探偵映画と、とりあえずは言えるだろう。

  アンドリュー・ガーフィールド扮する青年サムは、成功を夢見て、ロサンゼルスのシルバーレイクに住んでいる。いまは、これといった仕事がなく、家賃を滞納し、退去を迫られている。ある日、近くに美女が引っ越してくる。覗き見をするサム。美女の名はサラ(ライリー・キーオ)。サラの買っている犬をきっかけに、サムはサラと知り合う。

 その頃、富豪で大物の映画プロデューサーが失踪する。ここ数年、ロサンゼルスに住むセレブの不可解な死が連続している。さらに、あちこちで犬が殺されている。「ロサンゼルスは呪われているのではないか」と思ったサムは、「呪われた街シルバーレイクの謎」という本に夢中になる。

  サラが突然、姿を消す。サムは、サラの部屋の壁の暗号らしい記号に注目し、なにかの陰謀ではないかと考える。車ごと焼かれた、映画プロデューサーの遺体が見つかる。テレビを見ていたサムは驚く。車内には、3人の女性の遺体もあり、そのうちのひとりが、サラの帽子を被っていたのだ。

 ここまでは、ほんのとば口。やがてサムは、真相を究明するべく、ロサンゼルスの迷宮に、足を踏み入れることになる。

 単なる探偵映画ではない。コメディやホラーなど、さまざまなジャンルの映画を、一手に引き受けたようなタッチが続く。やがてサムは、ひょっとして、ロサンゼルスだけでなく、この世界を動かしている「誰か」が、あるいは「何か」が存在するのではないかと確信し、まさに迷宮に入っていく。

 映画ネタだけでなく、劇中には、目くらましかと思うほど、さまざまなアイテムが出てくる。ちょうど、犯罪を犯した人物が、捜査を長引かせるために、多くの遺留品を現場に置き去るように。

 広告の手法に、潜在意識に訴えるサブリミナル効果というのがある。タバコや酒の広告に、どくろなどの死のイメージや、男性や女性の体の一部や、SEXを連想する映像や文字を潜ませる。実際に効果があるのかどうかは疑問だが、本作でも、サラの飼っている犬の名は、コカ・コーラだ。また、サムは、レコードを逆再生して、ある言葉にたどり着く。これまた、一種のサブリミナル効果かもしれない。

  いくつかの暗号が提示される。ゲームソフトの「スーパーマリオブラザーズ」と「ニンテンドー・パワー・マガジン」が出てくる。サムは、プールで全裸で泳ぐサラの夢を見る。まるで遺留品の多さに途方にくれる警官のよう。

ノンストップでドラマが展開する。それはそれは、興奮する。細部にことごとく意味がありそう。だから、一度見ると、また見たくなる。二度見ても、まださらに見たくなる。

 脚本、監督は、傑作ホラー「イット・フォローズ」を撮ったデヴィッド・ロバート・ミッチェルで、まだ40代なかば。監督は、サムを、ロサンゼルスを舞台にした映画の多くの探偵の仲間に加える。ハワード・ホークス監督「三つ数えろ」のフィリップ・マーロウ、ロマン・ポランスキー監督「チャイナタウン」のジェイク・ギテス、デヴィッド・リンチ監督「マルホランド・ドライブ」のベティ・エルムス、ポール・トーマス・アンダーソン監督「インヒアレント・ヴァイス」のラリー・”ドック”・スポーテッロといった人物たちの仲間に。

監督は言う。「これは、明確な答えを打ち出す映画ではない。見た人たちが自分で考え、議論し、そしてできればもう一度見てもらえるように、意図的に作っている」と。二度三度、見たくなるのも、むべなるかな。

 映画のイメージとしては、ロサンゼルスの土地売買や麻薬取引の陰謀に迫る「インヒアレント・ヴァイス」に近いだろう。おそらく、原作になったトマス・ピンチョンの「LAヴァイス」の世界観が、監督の背中を、強く押したに違いない。

 かつて、ロサンゼルスに3日ほど滞在したことがある。ダウンタウン近くの安いホテルで、夜中、窓から駐車場を眺めていると、車が一台、入ってくる。男がひとり降りて、隣に停めてあった車に乗り込む。しばらくして、男が自分の車に戻り、出ていく。ただそれだけのことだが、おそらく麻薬かなにかの取引だろうと、勝手にロサンゼルスはこういう街なんだと想像していた。

 夜、グリフィス天文台へのツアーに参加した。途中、シルバーレイクの北側を通ったらしいが、もはや、記憶にない。もちろん、グリフィス天文台は、映画の重要な場所として、登場する。

 「アンダー・ザ・シルバーレイク」を見て、思った。トマス・ピンチョンの描いたロサンゼルスの迷宮は、出口なし。その混沌は、永遠に続くのだろう、と。

☆2018年10月13日(土)~ 新宿バルト9、UPLINK渋谷にてロードショー

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