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今週末見るべき映画「バグダッド・スキャンダル」

――国連に抱いているイメージが一変する。イラクのフセイン政権崩壊の前、経済制裁にイラク市民は苦しむ。国連の、食料などを援助、供給する救済プログラムが実施されるのだが……。

                      (2018年10月31日「二井サイト」公開)

 学生時代の友人が、国連の農業関係の仕事で、ニューヨークに長く勤めていた。世界じゅうの食料事情をよくする。人のためになる、立派な仕事だ。世界のあちこちで紛争がある。国連軍が解決を目指す。異論はあると思うが、これまた立派なことと思う。

 ところが、国連の関係者や政治家、世界じゅうの企業が、巨額のお金が動くプログラムの汚職に関わっていた。

 映画「バグダッド・スキャンダル」(アンプラグド配給)は、国連の歴史で、最悪のスキャンダルと言われている「石油・食料交換プログラム」をめぐっての、実話に基づくドラマだ。原作は、マイケル・スーサンの小説「Backstabbing for Beginners」。

 湾岸戦争のせいで、イラクのフセイン政権は、経済制裁を受け続けていた。いちばん困るのは一般市民で、食料や医薬品が圧倒的に足りない。

 1996年、国連の安保理決議を経て、「石油・食料交換プログラム」がスタートする。国連がイラクの石油を管理して、各国に石油を売ったお金で、食料や医薬品を買い、イラク市民に配給するというわけだ。表向きは人道支援プランだが、巨額のお金が動き、利権が巣くうことになる。予算総額640億ドルで、当時の為替レートで円に換算すると、7兆3600億円を超えるらしい。

当然、利権あるところに賄賂が飛び交い、不正、汚職が続出する。プログラムそのものは、2003年に終了するが、後日、プログラムを管理、運営していた国連の事務次長、ベノン・セバン(映画の役名は、コスタ・パサリスで、通称パシャ)の関与が明るみに出る。なにしろ、世界56カ国、2000を超える企業が絡んでいる。いずれも、大手の石油会社や、軍事企業で、不明の金額は、200億ドルと言われている。その全容はいまだ闇の奥だ。

 国連職員として働き、「石油・食料交換プログラム」にも関わっていたマイケル・スーサンが、2008年に小説を書く。なぜ、200億ドルものお金が流出したのか。その謎に迫る小説は、あちこちで評判になる。格好のネタで、映画化も当然だろう。

 2002年10月。父親が外交官だったマイケル・サリバン(テオ・ジェームス)は、国連で働くのを夢見る24歳の青年だ。運良く国連の職員となったマイケルは、国連事務次長コスタ・パサリス、通称パシャ(ベン・キングズレー)の指揮する「石油・食料交換プログラム」の担当となり、バグダッドの国連事務所に勤めることになる。

 この国連主導プログラムの目的は2つ。フセインの大量破壊兵器の開発を阻止することと、2000万人ものイラク市民に食料や医薬品を配給することだ。

 年間予算100億ドル。国連が石油を管理し、売る。莫大なお金が動く。ここに、いろんな人間の思惑が絡んでくる。出世を狙い、私財を増やし、口利きひとつがお金になる。

 バグダッド事務所の女性所長のクリスティーナ・デュプレ(ジャクリーン・ビセット)は、「欺瞞ね、反吐が出る」と、プログラムの破綻を報告、告発しようとしている。一方、パシャは、食料や医薬品がイラク市民にきちんと届いていて、プログラムは成功、というのが持論だ。

 巨額の予算に、利権が絡み、関係者それぞれの思惑が渦巻く。マイケルの許にも、パシャの知り合いらしい人物が、封筒にズシリと入ったお金を持ってきたりする。

 ほどなく、マイケルは、女性の通訳ナシーム・フセイニ(ベルシム・ベルギン)と知り合う。ナシームはマイケルに言う。「あなたの前任者のアベックは、国連が秘匿している情報を知ったために殺された」と。ナシームは、アベックの残したデータを、マイケルに託す。

 やがて、デュプレも亡くなる。マイケルは、パシャの真の狙いが判明できないまま、大きな陰謀の概要を知ることになる。

スリリングでスピーディな展開。息つくひまもない、とびきりのおもしろさ。マイケル役のテオ・ジェームスは、「恋のロンドン狂騒曲」で映画デビュー。1984年生まれにしては、老獪な芝居を見せる。事務次長パシャ役は、ベン・キングズレー。「ガンジー」では、第55回アカデミー賞で主演男優賞を受けている。事務所長デュプレ役はジャクリーン・ビセット。「ブリット」以来のファンだが、つい最近見た「二重螺旋の恋人」でも、老いてもなお、美しい。

 主役の3人は、いずれもイギリス勢。通訳のナシーム役は、トルコ生まれのベルシム・ビルギンで、イランとトルコの合作、バフマン・ゴバティ監督の「サイの季節」では脇役だったが、ここでは重要な役どころを演じる。

 共同で脚本を書き、監督を務めたのは、デンマーク生まれのペール・フライ。スウェーデンの女性ジャズ歌手、モニカ・ゼタールンドの半生を描いた「ストックホルムでワルツを」を撮り、スウェーデンでは大ヒットに導いた。すでに手だれ、キレのある演出力は、観客をぐいぐい引っ張っていく。 

 「バグダッド・スキャンダル」を見ると、国連へのイメージが一変してしまった。ちなみに、3年ごとに見直す各国の国連分担金をみると、2016年~2018年の国連通常予算分担金の1位はアメリカで、5億9140万ドル。2位は日本で、2億3530万ドル。以下、中国が1億9250万ドル、ドイツが1億5530万ドル、フランスが1億1810万ドルと続く。2019年~2021年の分担金は、日本と中国の順位が逆転するらしい。これほど多額の分担をしている日本が、いまだ常任理事国になれないのは、どういうわけだろうか。

 ともあれ、国連では大金が動く。映画で描かれたプログラムのお金の動きは、半端ではない。お金が絡むと、たいていの人は、いかようにも変貌するのだ。

「映画で描かれたことは、ほとんど事実」と、原作者のマイケル・スーサンは言う。

 また、「大物政治家や企業がお金を手にする代わりに送られてくる支援物資は、ほぼ期限切れの医薬品や、犬が食べる様な食料だったし、CIAやKGBも関わっている事は、皆が承知の上での秘密だった」とも。

 日本では、国会の議員事務所でお金を受け取ったり、納税の申告方法についての口利きで100万円ものお金を受け取ったりしたらしい現職の大臣がいる。国連から比べるとせこいことこの上ないが、疑惑は疑惑。「瓜田(かでん)に履(くつ)を納れず、李下に冠を正さず」だ。

 日本では、便宜供与にあたるのを知ってか知らずか、友人という理由だけで、ゴルフ代や食事代を支払ってもらっていた政治家がいた。李下で冠をいじっているこの政治家が、「李下に冠を正さず」と言う。まるで洒落にならない。

 イラク戦争に材をとった劇映画やドキュメンタリー映画は、あまたあるけれど、「バグダッド・スキャンダル」は、イラクが絡む国連の内幕を描いた、初の映画だろう。デンマーク、カナダ、アメリカの合作で、デンマークの監督、原作者、イギリス、トルコの俳優ら、文字通りの国際連合。この晩秋、強くおすすめの一本。

☆ 2018年11月3日(土)~ 新宿シネマカリテにてロードショー

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