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今週末見るべき映画「それだけが、僕の世界」

――元ボクサーの兄と、サヴァン症候群でピアノの才能に恵まれた弟が、初めて出会う。兄は弟に夢を見ることの大切さを教えようとする。

(2018年12月26日「二井サイト」公開)

2018年。今年もまた、多くの優れた映画を、試写で見せていただいた。もちろん、映画館でも、多くの映画を見た。

 この年末、12月28日(金)公開になる「それだけが、僕の世界」(ツイン配給)もまた、今年見せていただいた優れた映画の一本だ。

笑いと涙が絶妙なさじ加減、なによりも、さわやかな映画である。

 長年、別々の人生を生きていた兄と弟が出会う。兄ジョハ(イ・ビョンホン)は40歳過ぎ。元プロのボクサーで、東洋ウェルター級チャンピオンにまでなったことがある。いまは、スパーリング・パートナーや、チラシ配りのアルバイトで、食べていくのがやっと。

 ジョハは、ある焼き肉店で、17年ぶりに母親のインスク(ユン・ヨジュン)と再会する。ジョハは、過去のある出来事から、家を飛び出し、ひとりで生きてきた。

 「一緒に暮らそう」とのインスクの提案を、ネットカフェ暮らしのジョハは、ひとまず受け入れる。ジョハは、初めて、弟のジンテ(パク・ジョンミン)と顔を合わす。サヴァン症候群のジンテは、無邪気そのもの。どんな時でも、「ハーイ」と受け答えするだけで、ジョハはいらつくばかり。それでも、母親のインスクは、息子ふたりとの暮らしに、喜びを隠せない。 

 ジンテは、スマホで一度聴いた音を、すぐにピアノで演奏できる才能がある。得意のテレビゲームでは、ジョハを負かしてばかり。

 ジョハは、チラシ配りの仕事中に、以前、ジョハに車で事故を負わせた女性ガユル(ハン・ジミン)と再会する。ガユルは、ジンテも大ファンの女性ピアニストだったが、交通事故のために片足を失い、いまは表舞台には立っていない。

 インスクの勤めている焼き肉店が、新しい店を出すために、インスクは、1カ月間、家を留守にすると言う。インスクは、自分が不在の間に開催されるピアノ・コンクールに、ジンテを出場させるよう、ジョハに懇願する。ジョハは、やむを得ず、母親の願いを聞き入れる。

 ジンテの日常の世話をしながら、ジンテをコンクールに出場させるべく、ジョハの奮闘が始まる。

 ジンテは、サヴァン症候群という設定である。サヴァンは、フランス語で、「賢人」という意味らしいが、なんらかの障がいを抱えていても、ある特殊な才能のある人のこと。日本では、画家の山下清がいる。物理学者のアインシュタインもまた、サヴァン症候群だったようだ。ジンテは、絶対音感の持ち主らしく、スマホで、音楽を聴けば、すぐそのまま演奏できるほどの才能という設定だ。

 母親インスクと息子ジョハの関係は、三益愛子の演じた一連の母もの映画を彷彿とさせるが、ここに、元ボクサーで、荒っぽい兄ジョハと、障がいを持った弟ジンテのドラマが加わる。

 インスク役のユン・ヨジュンが、じつに達者。ジンテを溺愛し、兄弟の仲を取り持とうとする、いわば親バカなのだが、息子を思う母親の心情を、ごく自然に演じる。ジンテ役のパク・ジョンミンは、実際にピアノを弾き、サヴァン症候群の、さまざまな症状を演じて、ひときわ、観客を笑いに誘う。

 ジョハ役は、イ・ビョンホン。今までは、韓国やアメリカで、格好いい役ばかり演じてきた大スターだが、ここでは、落ちぶれた元ボクサー役で、両親との確執を抱えた複雑な役どころを演じる。一見、汚れ役に見えるが、ラストが近づくにつれて、俄然、格好よくなっていく。やはり、イ・ビョンホンは、イ・ビョンホンだ。

特筆すべきは、音楽の使い方が抜群にうまいこと。さりげなく、音楽が始まって、その盛り上げ方がハンパではない。

 音楽シーン前後の寸描が、実に巧妙だ。ジンテが公園で弾くピアノは、ベートーヴェンのピアノ・ソナタ第14番「月光」の第3楽章。豪邸に住むガユルと出会うシーンで、ブラームスのハンガリー舞曲の第5番を、ガユルと連弾する。圧巻は、笑いを誘いつつ、チャイコフスキーのピアノ協奏曲の第1楽章を弾くところだろう。

 そのほか、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番に、ショパンの幻想即興曲、ピアノ協奏曲第1番、ノクターン第2番、バラード第3番と、ショパンが続く。どこで、どんなふうに出てくるか、お楽しみください。

 障がい者が登場するのに、おおらかでユーモアたっぷり。声高ではないけれど、家族の絆はなによりも大切と囁いているようだ。これは、練られた脚本の力だろう。その巧妙さに、唸る。

誰が、こんなすてきな映画を撮るのかと見ると、監督、脚本はチェ・ソンヒョンではないか。

 「王の涙 イ・サンの決断」の脚本を書き、イ・ビョンホンのファンでもあるチェ・ソンヒョンの監督第一作になる。また、製作総指揮を、傑作「国際市場で逢いましょう」を監督したユン・ジェギュン。

 この年末年始、さわやかに笑い、しっとりと涙できる。超おすすめの見るべき一本。

☆2018年12月28日(金)~ TOHOシネマズ シャンテほか全国ロードショー

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