今週末見るべき映画「ともしび」
――ごひいき女優のひとり、シャーロット・ランプリングの新作は、またも、ほぼひとり芝居。夫と離れ、息子に厭われ、孫にも会えない。人生の終焉近くの孤独を、ほぼ表情の変化だけで演じぬく。
(2019年1月31日「二井サイト」公開)
冒頭、シャーロット・ランプリングのただならぬ叫び声と、ひきつった表情が映し出される。ただごとならない、と思うのも束の間、それが、演劇の講習の一幕だと分かる。ほっ。
「ともしび」(彩プロ配給)のファースト・シーンに、度肝を抜かれる。舞台はベルギーの海に近い地方都市。アンナ(シャーロット・ランプリング)は、夫(アンドレ・ウィレム)と食事をしている。会話は、まったく交わされない。ある疑惑を抱えた夫は、召喚されたために、家を出て行き、そのまま収監される。
アンナは、裕福な家で家政婦をしている。その稼ぎで、演劇クラスに通い、会員制のプールで泳ぐ。そのような日常が、淡々と描かれる。やがて、アンナの先行きを暗示するかのように、階上から汚水が落ち、天井にシミができる。
孫の誕生日が近づく。息子に何度も留守電を入れるが、返事がない。かつて息子に作ったケーキを焼いて、孫に届けようとするが、息子からは玄関払い。孤独が身に染み渡る。
アンナは、海岸に横たわる鯨を見に行く。我が身を、打ち上げられた鯨と対比するかのように。
プールでの着替えで、齢70歳を超えてなお、シャーロット・ランプリングは裸身をさらす。シャーロット・ランプリングの今まで出た映画は、ざっと、20本ほど。思わず、26、7歳のころに出演した「愛の嵐」での有名なシーンがよみがえってくる。
原題は「アンナ」だが、ラスト近く、映画の邦題を暗示するかのような、スリリングなシーンが連続する。アンナの消えかかった命の火が、いまだ灯り続けることを願わずにはいられない。
共同で脚本を書き、演出したのは、アンドレア・パラオロ。まだ長編監督作は2作目なのに、細部に、老獪な手腕をみせる。
影響を受けた映画作家として、ミケランジェロ・アントニオーニ、ルイス・ブニュエル、ミヒャエル・ハネケ、シャンタル・アケルマン、カルロス・レイガダス、ツァイ・ミンリャン、ジョン・カサヴェテス、タル・ベーラらの名をあげる。こういった監督の映画を見たことのある人なら、おのずと「ともしび」が、どのような雰囲気の映画か、察せられると思う。
その通り、アンドレア・パラオロの映像は、夫の疑惑や息子との確執といった状況設定の詳細は明かさず、ひたすらシャーロット・ランプリング演じるアンナの内面に入り込んでいく。シャーロット・ランプリングは、ちょっとした仕草、表情で、その内面を完璧に演じ、まだ若い監督に応える。
エンドロールを見ながら、深い余韻が漂う。
自ら閉じようとしているアンナの世界は、まだ、現前として存在すると信じたい。
☆ 2019年2月2日(土)~ シネスイッチ銀座他にて全国順次公開