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今週末見るべき映画「ちいさな独裁者」

――ナチス・ドイツの若い脱走兵が、大尉の軍服を発見、身につけたことから、ヒトラーよろしく、残虐な独裁者に成り上がっていくのだが……。

(2019年2月7日「二井サイト」公開)

ハリウッドで、「フライトプラン」、「RED/レッド」などを撮ったロベルト・シュヴェンケ監督が、母国ドイツに戻って撮った新作が、実話に基づいている「ちいさな独裁者」(シンカ配給)だ。

 1945年4月、敗戦濃厚のドイツで、二十歳そこそこの若い兵士ヴィリー・ヘロルト(マックス・フーバッヒャー)が部隊から脱走する。途中でヘロルトは、軍用車両にあったナチス将校の大尉の軍服を見つけ、着込む。

 そこに上等兵のフライターク(ミラン・ペシェル)が現れ、軍服を見ただけで、ヘロルトに敬礼し、「お供させてください。はぐれました」と申し出る。大尉のふりをしたまま、ヘロルトは、プライタークを運転手として従えさせる。

 ヘロルトたちは、ある村の農家で、乱暴そうな兵士たちと出会う。とっさにヘロルトは、兵士たちに、「動静を調べている。手伝え」と、ありもしない任務をでっちあげる。軍服の威力に味をしめたヘロルトは、兵士たちの軍隊手帳に、「特殊部隊H」という、これまた架空の部隊を編成してしまう。

 ヘロルトたちは、脱走兵を取り締まる憲兵隊に遭遇する。とっさにヘロルトは、「ヒトラーからの任務を遂行中だ」と、またまた嘘をつく。やがて、「特殊部隊H」は、荒れ果てたところにある収容所にたどり着く。ここは、軍規に違反したドイツ軍の兵士が多く収容されていて、警備隊長のシュッテ(ベルント・ヘルシャー)は苛立っている。

 ヘロルトは、またもうまく立ち回り、ハンゼン収容所長(ワルデマー・コブス)の反対を押し切り、兵士たちを即決の裁判にかけ、処刑を始めようとする。

 ドイツの降伏、敗戦は直前に迫っているが、ヘロルトは、いまや独裁者。周囲は、ヘロルトの残虐な行為に加担し、傍観する。疑う者はいても、もはや、逆らう者はいない。

1945年、敗戦直前のドイツで、じっさいにあった出来事が基になっている。将校の軍服を身に着け、疑われても、その場逃れの嘘をつき続ける。やがて、衆愚はヘロルトに服従していく。

 ふと思う。かつてのドイツだけの話ではない、と。たまたまの衆愚のおかげか、行き当たりバッタリの嘘をつき続け、いつのまにか、ほぼ独裁を手中にした日本の政治家に、ヘロルトの一挙一動がダブる。

 脚本を書き、演出したロベルト・シュヴァンケはこう言う。「彼らは私たちだ、私たちは彼らだ。過去は現在なのだ」

 衣装ひとつで、人の心が変わりうる。威厳ある衣装に、人はおののく。衣装の醸し出す権威に、疑いを持つ人もいるが、盲目的に服従する人のほうが、圧倒的に多いだろう。

 ヘロルトを演じたマックス・フーバッヒャーは、スイス生まれ。同じスイスの作家パスカル・メルシエの小説「リスボンへの夜行列車」を映画化した「リスボンに誘われて」に、ほんの脇役で出ていたが、ここでは、終始、狡猾で冷徹な役どころを堂々と演じる。

 映画は、現代のドイツに、「あるもの」を提示して、幕をおろす。永遠に終わらない悲劇の幕は、いつも上がっていることを象徴するかのように。そう、やはり、彼らは私たちで、過去は現在なのだ。

☆ 2019年2月8日(金)~ ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館、YEBISU GARDEN CINEMA ほか全国公開

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