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今週末見るべき映画「マイ・ブックショップ」

――1959年。フローレンスは、イギリスの海辺に面した小さな町で、亡き夫との夢だった書店を開くが、保守的な町ゆえ、さまざまな妨害、横槍が入る。立ち向かうフローレンスの、凛とした生き方に魅せられる。

(2019年3月7日「二井サイト」公開)

日本では、いま書店が、相次いで閉店している。1992年には22296店あったのが、2017年には12526店。ざっと半減だ。これは、営業所や外商も含む数なので、正確な書店数は、おそらく1万店前後だろう。

 本や雑誌が売れない、というのが第一の理由と思われるが、売る努力をしないことも閉店に繋がっている。大手のチェーン店ですら店舗閉鎖となり、ほかのチェーン店に明け渡していたりする。

 ネット販売や、SNSの普及も原因だろうが、いったいに「本離れ」は、事実だろう。そんないま、本好きには、たまらない映画がある。「マイ・ブックショップ」(ココロヲ・動かす・映画社○配給、ミモザフィルムズ配給協力)だ。

 1959年、イギリス東部の海辺の小さな町は、何かにつけ、保守的だ。ここに住むフローレンス(エミリー・モーティマー)の唯一の楽しみは、海岸まで散歩し、本を読むこと。今日もまた、フローレンスは海辺でひとり、本を読んでいる。ひとりの老人が、遠くから見ていることを知らないで。

フローレンスの願いは、亡き夫との夢だった書店を開くことだ。フローレンスは、夢の実現に向けて動き出すが、銀行からの融資はままならない。それでもフローレンスは、「オールドハウス」と呼ばれているボロボロの建物を買い取り、書店オープンに向けて動き出す。

 そんなフローレンスに、町のいろんな人が接触してくる。買い取った「オールドハウス」を転売すればとか、別のもっといい物件を紹介しようとか。

 町の有力者、ガマート夫妻のパーティに、フローレンスが招待される。ガマート夫人(パトリシア・クラークソン)は、フローレンスに、「町に書店ができるのはいいね」と言いつつ、「オールドハウスは、町の芸術センターとして使いたい」と言うではないか。もちろん、フローレンスは、「書店を開く」と、きっぱり、言い返す。

手続きを進めない弁護士がいる。「書店は出来ない」といった噂が飛び交う。それでもなんとか、フローレンスの「オールドハウス書店」は無事、オープンする。海辺で本を読むフローレンスを見守っていた老人、ブランディッシュ(ビル・ナイ)から、「推薦する本を送ってほしい」との注文が入る。さっそく、フローレンスは、レイ・ブラッドベリの『華氏451度』を送る。感動したブランディッシュは、さらにブラッドベリの他の本も注文してくれる。

 書店は、繁盛しだす。フローレンスは、発禁騒動で世間を騒がせているウラジミール・ナボコフの『ロリータ』の仕入れをめぐって、ブランディッシュに『ロリータ』を送り、意見を求める。ブランディッシュは、フローレンスを自宅に招き、「『ロリータ』を売るべき」と言い、フローレンスの勇気を讃える。

 面白くないのはガマート夫人だ。あらゆる手段を使って、「オールドハウス書店」を潰しにかかろうとする。果たして……。

 フローレンスを支援するブランディッシュに扮したビル・ナイの渋い演技が光っているが、フローレンスを演じたエミリー・モーティマーの凛とした佇まいが、絶品だ。

かつて、阿久悠さんの詩集「凛とした女の子におなりなさい」(暮しの手帖社)の編集を担当したが、このなかに、詩集のタイトルと同名の詩がある。阿久悠さんは、凛とした女の子の、いくつかの条件を綴った後に、こう書く。

「……あとは 自由に生きなさい 強く生きなさい 自由で強くてやさしい子を 凛としていると言います 凛とした女の子になりなさい 凛とした…… 近頃いないのです」

 映画のなかに出てくる本は、『華氏451度』『ロリータ』以外に、リチャード・ヒューズの『ジャマイカの烈風』、チャールズ・ディケンズの『ドンビー父子』、レイ・ブラッドベリの『火星年代記』『たんぽぽのお酒』である。本好きには、たまらない本ばかり。

 どのような本か、読まれたことのある方なら、「マイ・ブックショップ」という映画が、なにを言おうとしているかが明確になるはず。未読の方には、映画の結末をご覧になれば、これらの本を、必ず読みたくなると思う。

 映画の原作は、イギリスの作家、ペネロピ・フィッツジェラルドの「The Bookshop」。

 脚本、監督は、スペイン生まれのイザベル・コイシュだ。「死ぬまでにしたい10のこと」「あなたになら言える秘密のこと」、パリを舞台にした18編のオムニバス「パリ・ジュテーム」の一編など、繊細で鋭い視点からの語り口は、もはや女流でも一流。

映画の驚愕のラストは、人生にはいろんな障害がつきまとう、それでも、勇気をもって人生に立ち向かう、そして、自由に生きることの大いさを伝えて、深い余韻が漂う。

☆ 2019年3月9日(土)~ シネスイッチ銀座ほか全国ロードショー

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