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今週末見るべき映画「サンセット」

――第一次世界大戦の直前、ハンガリーのブダペストの高級帽子店に、イリスという女性がやってくる。かつて、イリスの両親が遺した帽子店だが、ここには大きな闇が横たわっていた。

(2019年3月12日「二井サイト」公開)

ハンガリーの映画監督ネメシュ・ラースローは、かつて、タル・ベーラ監督の「倫敦から来た男」で、助監督を務めた。タル・ベーラの教えよろしく、ネメシュ・ラースローは、初の長編「サウルの息子」を撮り、第68回カンヌ国際映画祭で、グランプリを受ける。2作目が、このほど公開になる「サンセット」(ファインフィルムズ配給)だ。

 舞台は、1913年のハンガリーのブダペスト。冒頭、シューベルトの弦楽四重奏曲第14番の第2楽章が流れる。自らの歌曲集「死と乙女」の旋律が使われているので、その弦楽四重奏曲には「死と乙女」とのタイトルがついている。映画の全編を暗示するかのような音楽だ。

 求人広告を見たレイター・イリス(ユリ・ヤカブ)は、トリエステからブダペストのレイター帽子店にやってくる。ここは、彼女が2歳のときに亡くなった両親が遺した店だ。

 いまのオーナーのブリル・オスカル(ヴラド・イヴァノフ)は、イリスを丁寧に迎えいれるが、「なぜ今ごろやってきたのか」とばかり、雇う気はさらさら、ない。イリスは、以前住んでいた家の一角に宿をとる。

 夜中、帽子店の元従業員で、ガスパール(レヴェンテ・モルナール)と名乗る男が、イリスを訪ねてくる。ガスパールは、レイター家には息子がいたことをイリスに告げる。イリスは、兄がいたことを、初めて知る。

 翌日、ブリルはイリスを駅まで送る。イリスは列車に乗ろうとするが、踏みとどまる。イリスは、孤児になったときに、トリエステに世話をした斡旋所に向かい、自らの記録を確認しようとする。記録は、ない。わずかに知り得たのは、「カルマン」という兄がいて、レディ伯爵を殺して、いまは行方が分からないといったことくらいである。

 公園では、レイター帽子店の30周年を祝う会が開かれている。イリスは、ここでレディ伯爵夫人(ユリア・ヤクボウシュカ)と出会うが、伯爵夫人は、イリスをじっと見つめるだけである。

 店にもどったイリスは、なぜか、一時的に滞在を許される。イリスの前に、さまざまな男たちが現れる。「ここを去れ、今週ここで血が流れる」とヤカブ・シャンドル(マルツィン・ツァルニク)。

イリスは、兄について何か手がかりはないものかと、伯爵夫人の屋敷に向かう。

 遅れて、ウィーンから、フォン・コーニグ(クリスティアン・ハルティング)という男が訪ねてくる。以前、公園で、イリスに声をかけた男だ。カーテンに隠れたイリスは、コーニグと伯爵夫人がどのような関係だったかを知る。

イリスは、まるで迷路をさまようかのように、兄カルマンの捜索を続ける。

そんな時、オーストリアから、フランツ・フェルディナンド皇太子とゾフィー妃殿下が、客として帽子店にやってくる。妃殿下の帽子のサイズを採寸している時、どこかで爆発音がする。

 やがて、イリスは、両親の経営していた帽子店に秘められていた大きな闇に気づきはじめる。いまや、第一次世界大戦の前夜である……。

 監督のネメシュ・ラースローは、多くの人物に、多くのことを語らせるが、詳しい説明はしない。謎は謎のまま、解釈は観客に委ねる。だから観客は、正面と背後から捉えられた映像のイリスに同行し、ブダペストをさまようことになる。

 ヨーロッパの列強が、繁栄と栄華を求めて競いあう。アフリカのほとんどを植民地にせざるをえないほどの国家間の争いがある。個人、組織、国家のいずれも、争い、戦う。戦いに勝っても、やがて没落する運命を避けられない。

 「平家物語」の冒頭にこうある。「祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす」

 また、「方丈記」はこうだ。「ゆく河の流れは絶えずして しかももとの水にあらず よどみに浮かぶうたかたは かつ消えかつ結びて 久しくとどまりたるためしなし」と。奢りたかぶる人たち、組織、国家への、現代でも通用する永遠の警鐘だろう。

 かなり前だが、F・W・ムルナウ監督がアメリカで初めて撮った映画に「サンライズ」がある。田舎に住む男が、都会から来た女の虜になる。女にそそのかされた男は、妻を殺そうとするが、思いとどまる。まだ、未来への希望がある。新天地アメリカで、映画が撮れる。陽は昇りつつある。映画「サンセット」は、まさに日没。世界を巻き込んだ戦争が、やがて始まる。

 いまの世界は、はたして「サンライズ」か「サンセット」か。映画「サンセット」を見ると、第一次世界大戦前夜のドラマが、現代そのもののような気がしてならない。

☆ 2019年3月15日(金)~ ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館他にてロードショー

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