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今週末見るべき映画「ザ・プレイス 運命の交差点」

――人はその願望を叶えるために、いったいに努力し、なにがしかの苦労をするものだ。ただし、その努力、苦労が、とんでもない内容だとしたら……。

(2019年4月2日「二井サイト」公開)

男がひとり、「ザ・プレイス」というカフェの奥に座っている。この男に何か相談事があるのか、いろんな人が、つぎつぎとやってくる。そして、相談事の進捗状況を話している。男は、分厚いノートに、その内容を記録している。

 パオロ・ジェノヴェーゼの監督、原案、脚本になるイタリア映画「ザ・プレイス 運命の交差点」(ミモザフィルムズ配給)は、ただそういう状況を会話だけで描いているが、これがべらぼうに面白い。

 「ザ・プレイス」というカフェにいる男(ヴァレリオ・マスタンドレア)が、入れ替わり立ち替わり、カフェにやってきた人たちに、願い事を叶える契約の代償として、とてつもないことを要求している。男の名前は、映画の最後まで明かされない。

 男は、放蕩息子を何とかしたい刑事のエットレ(マルコ・ジャリーニ)には、「女性からの被害届けをもみ消せ」と言う。

 アルツハイマーの夫を治したい老婦人マルチェラ(ジュリア・ラッツァリーニ)には、「人が多くいる場所に、爆弾を仕掛けろ」と言う。

 幼い息子の癌を治したいルイージ(ヴィニーチョ・マルキオーニ)には、「幼い少女を殺せ」と言う。

 神の存在を感じなくなり、神を再び感じたいと願う修道女キアラ(アルバ・ロルヴァケル)には、「妊娠しろ」と言う……。

このような計9名の男女が、途中経過を知らせるべく、何度も、男を訪ねてくる。カフェには、アンジェラ(サブリーナ・フェリッリ)という女性の店員がいて、何度か男に話しかけてくるが、男は自分の素性は、いっさい、口にしない。「カウンセラーみたいな仕事?」と聞かれても、軽く受け流す。

男が9人に与えた課題は、願望や欲望が叶うとはいえ、それぞれ、途方もなく難しい。少女を救うといった例外もあるが、殺人や、ほとんど犯罪そのものだ。

だが、魂を売って、富や権力を手にするといった、悪魔に魂を売り渡したような人間がいる限り、こういったドラマは、じゅうぶん、ありうることだろう。自らの願望を叶えるために、凶行、蛮行にはしることは、魂を悪魔に売り払ったようなものだ。

 ファウストしかり。司祭の座を得るために、アダナのテオフィルスは、キリストと聖母マリアを捨て、悪魔と血の契約を結ぶ。

 やがて、9人のそれぞれが、どこかで関わりあっていく。まるで、ジグソーパズルの小さな破片が、ピタリと収まるように。男が、いったい何者かが判然としないままではあるが。

さすが、「おとなの事情」を撮った監督である。あざやかな語り口で、これだけの状況を、わずか1時間41分にまとめあげてしまう。多くのコマーシャル・フィルムを撮った経験、力量がものを言う。謎は謎のままでいい。見て、なにを思うか、だ。ふと気付く。男は悪魔であり、男に話しかけるアンジェラは、エンジェルつまり天使と思われる。

 劇中、ボビー・ヘブの唄う「サニー」が引用される。殺された兄を悲しみ、神に祈ったボビー・ヘブの心情が生み出した名曲だ。「サニー」を聴いて、さらに思う。魂を売り渡して、富や権力を手にすることはすべきではない、と。たとえ、どのような状況であれ、人たるもの、自らの魂を、絶対、売り渡さないことだ。

 ざっと11名ほどの人物が登場する。いずれもイタリアでは著名な俳優で、何かの映画で見た顔ぶれだ。

 謎の男を演じたヴァレリオ・マスタンドレアは、「フォンターナ広場 イタリアの陰謀」や、「おとなの事情」に出ていた。修道女キアラ役のアルバ・ロルヴァケルは、「夏をゆく人々」や、「五日物語―3つの王国と3人の女」に出ていた。アンジェラ役のサブリーナ・フェリッリは、「グレート・ビューティー/追憶のローマ」に出ていた。

 原案は監督のパオロ・ジェノヴェーゼだが、原作がある。アメリカの一話30分弱のテレビドラマ「The Booth-欲望を喰う男」シリーズだ。未見なので、どういった原作かは不明だが、ぜひ、見てみたいものだ。

繰り返す。人は、富や権力のために、また、自らの願望、欲望を満たすために、決して魂を売らないことだ。

☆ 2019年4月5日(金)、ヒューマントラストシネマ有楽町、新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー

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