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今週末見るべき映画「アメリカン・アニマルズ」

――大学生4人が老人に変装し、野鳥画家ジョン・ジェームス・オーデュボンの描いた高価な画集「アメリカの鳥類」を、大学図書館から盗もうとする。4人は中産階級で、ことさら金に困っているわけではない。では、なぜ、盗もうとするのか。「レザボア・ドッグス」「オーシャンズ11」「スナッチ」よろしく、4人は綿密な計画を立て、図書館に侵入するのだが……。

                      (2019年5月14日「二井サイト」公開)

 2004年、ケンタッキー州。ボブ・ディランが絶賛しているジョニー・サンダーの「アイム・アライブ」を唄いながら、車を飛ばしているのは、学生のウォーレン・リプカ(エヴァン・ピーターズ)と、スペンサー・ラインハード(バリー・コーガン)。

「アメリカン・アニマルズ」(ファントム・フィルム配給)は、映画の大好きなウォーレンが、大学の図書館にある貴重な画集「アメリカの鳥類」を盗みだす相談をスペンサーにもちかけ、仲間を集めて実行に移すという、いわば犯罪映画と、とりあえずは言える。

 1838年、ジョン・ジェームス・オーデュボンの描いた「アメリカの鳥類」は、時価1200万ドルもする画集である。ウォーレンの提案に、美術を専攻するスペンサーが同意し、ふたりは犯罪映画を見まくり、カッコいいスーツを着た自分たちが、颯爽と盗みを働く様子を想像する。

 画集は、98cm×67cmもの巨大さで、うまく盗み、密かに売りさばくには、仲間がいる。ふたりは、FBIを目指す秀才のエリック・ボーサク(ジャレッド・アブラハムソン)と、すでに学生起業家として成功しているチャズことチャールズ・T・アレン2世(ブレイク・ジェナー)に、協力を依頼する。

 クエンティン・タランティーノ監督の「レザボア・ドッグス」では、お互いに素性を知らない泥棒仲間が、色をコードネームにして呼びあう。

 ハーヴェィ・カイテルがミスター・ホワイト、ティム・ロスがミスター・オレンジ、マイケル・マドセンがミスター・ブロンド、スティーヴ・ブシュミがミスター・ピンク、エディ・バンカーがミスター・ブルー、クエンティン・タランティーノがミスター・ブラウンだった。

 「アメリカン・アニマルズ」もまた、ミスター・ピンク、ミスター・ブラックなどと、この設定を踏襲する。

実際にあった事件を基にした、単純な犯罪ドラマであるにも関わらず、映画の構成には、凝った仕掛けが施してある。なんと、刑期を終えたと思われる実際の事件の犯人たちが映画に登場し、犯行の動機について語るのだ。ここだけ見ると、これはドキュメンタリー映画そのもの。

 このシーンで、スペンサーは、アーティストへの憧れを語る。ウォーレンは、特別でありたいという欲求を語る。エリックは、退屈な日常からの脱却を語る。チャズは、ただ金が欲しかったと語る。四人四様、動機は異なっている。おもわず苦笑を誘う場面だ。

やがて、フィクションとして作られた映画から、若者四人の現実が、すこしずつ露わになっていく。その語り口のうまさに、唸る

 オーデュボンの名を知ったのは、昔、伊坂幸太郎の小説「オーデュボンの祈り」を読んだときだ。シュールなミステリーで、人間の言葉をしゃべる優午という案山子が出てきて、主人公の伊藤と話すところがある。

「アメリカ人です。ジョン・ジェームス・オーデュボン。『アメリカの鳥』という自分の描いた鳥の図鑑を出版しました。百年以上も昔に」

 発行部数が少なく、高価な画集らしい。映画では、トランシルヴァニア大学図書館の所蔵本は、1200万ドル。いま1ドル110円ほどだから、ざっと13億円ちょっと。スペンサーたちが盗もうとしている画集を、どう換金するかの子細は、ややドタバタふうに描かれ、またまた苦笑となる。

 実際のオークションでの「アメリカの鳥類」の落札価格は、2010年のサザビーズで1150万ドル、2012年のクリスティーズでは、790万ドルだった。ちなみに、日本では、全4巻の複製本が出版されていて、453万6千円もする。

 映画では、学生たちの犯罪計画が加速していき、スリリングかつサスペンスたっぷりとなる。その結末は……。

 かくも凝った映画を撮ったのは、ドキュメンタリー映画作家のバート・レイトン。初の長編劇映画とは思えない鮮やかな演出に、翻弄されてしまうよう。

 四人の学生では、スペンサー役のバリー・コーガンが達者。「聖なる鹿殺し キリング・オブ・ア・セイクリッド・ディア」で、不気味な若者を演じて、大注目を浴びた。図書館の女性司書役のベティに扮したアン・ダウドが、いい味の芝居を披露、その振る舞いぶりは、感心するほど巧み。

 オーデュボンの残した言葉にこうある。「偉大な人は特定の方法で礼儀を示します。それは”笑顔”です」

 私見だが、おそらく、バート・レイトン監督は、このオーデュボンの言葉を実践したような映画を撮りたかったのではなかろうか。そして、「アメリカン・アニマルズ」で、みごとに実証したことと思う。

☆ 2019年5月17日(金)~ 新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国ロードショー

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