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今週末見るべき映画「サマーフィーリング」

――ベルリン、パリ、ニューヨークと、かつて愛した女性サシャの面影を追うロレンス。サシャの妹ゾエは、シングルマザーの身でパリで働いている。ロレンスはパリに向かい、ゾエにサシャの面影を見いだす。ゾエは、いまはニューヨークで働くロレンスを訪ねるのだが……。

(2019年7月4日「二井サイト」公開)

 身内他人を問わず、いずれ、人は愛する人の死に立ち会う。悲しみを抱えたままでも、人生は続く。果たして、喪失の悲しみから、人は、どのように立ち直ろうとするのだろうか。そのような問いを、「サマーフィーリング」(ブロードウェイ配給)は、ストレートに投げかけてくる。

 つい最近、公開された「アマンダと僕」の監督ミカエル・アースが、「アマンダと僕」よりも前に撮った映画である。人物設定こそ違え、愛する人の喪失といった結構は、同じだろう。

 ベルリンの夏。サシャは30歳のキャリアウーマンで、ギャラリーを併設したアートセンターに勤めている。朝、サシャが目覚める。ベッドでは、愛するロレンス(アンデルシュ・ダニエルセン・リー)は、まだ眠っている。夕方、勤めからの帰り道で、サシャは倒れてしまう。

 突然のサシャの死に、ロレンスはもちろん、サシャの父ウラジミール(フェオドール・アトキン、母アデル(マリー・リヴィエール)、妹のゾエ(ジュディット・シュムラ)は、ただただ呆然とする。

1年後。パリの夏。ゾエは、小さなホテルで働いている。結婚して小さな男の子のいるゾエは、夫と別居している。ロレンスはゾエに会うべく、パリに向かう。話題は亡くなったサシャのことばかりだが、いまだ心の整理がつかないロレンスとゾエは、交わす言葉は少ない。ふと、ロレンスは、ゾエにサシャの面影を見る。

 また1年後。ニューヨークの夏。ロレンスは姉が経営するアンティーク・ショップを手伝っている。友人も出来たロレンスは、悲しみを秘めながらも、なんとか立ち直ろうとしている。ロレンスは、同僚の女性イーダ(ドゥニア・シショフ)と心を通わせ始めている。そこに、離婚したゾエが、友人を訪ねがてら、ニューヨークに立ち寄る。ロレンスとゾエは、またまた再会するのだが……。

 登場人物の表情が、ことに雄弁だ。悲しみにくれる微妙な感情の襞を、繊細に切り取ったアース監督のお手柄だろう。お手柄の基は、ヌーヴェルヴァーグの巨匠、エリック・ロメールだろうか。

 ロメールは、あまたある日常から、さりげなく、繊細なドラマを引き出す名手だ。「クレールの膝」「海辺のポーリーヌ」「緑の光線」「春のソナタ」「冬物語」「夏物語」「恋の秋」などなど。もちろん、アース監督は、ロメール作品を好きにちがいない。

逆縁の悲しみに耐える母親アデルに扮したマリー・リヴィエールの表情が、抜群にいい。ロメールの「緑の光線」では、理想が高く、気強い女性を演じていた。また、まことに好人物の父親ウラジミール役のフェオドール・アトキンは、やはりロメールの「海辺のポーリーヌ」に出ていた。このように、アース監督は、ロメール作品の名優たちを、巧みにキャスティングする。

 また、ロレンスに小説を書くよう助言する友人役で、映画監督でもあるジョシュア・サフディがニューヨークでのシーンに登場する。

アース監督は、悲しみにある人たちを、とても暖かく見つめ、優しく、描く。夏の、三つの都市のかずかずの美しい風景もまた、悲しみにある人たちに、暖かく、優しい。

 ちなみに、「サマーフィーリング」というタイトルは、ジョナサン・リッチマンのヒット曲「ザット・サマー・フィーリング」からの発想で、これをフランス語に翻案したらしい。

 引用される音楽にも、アース監督の美意識が発揮される。劇中、リッチマンを敬愛するマック・デマルコが、ライブのシーンで「ブラザー」を唄う。

 そのほか、フェルトの「ペネロペ・ツリー」、ラーズの「サン・オブ・ア・ガン」、アンダートーンズの「ティーンエイジ・キックス」、ファンタスティック・サムシングの「ホーム・イン・アナザー・ハート」、ニック・ギャリーの「ステファニー・シティ」、ベン・ワットの「ノース・マリーン・ドライブ」など、軽快だけれど、どこか憂いを帯びた佳曲がズラリ。

 ドラマ。音楽。いずれも、「フィーリング」である。映画をよしとするかそうでないかは、やはり、観客自身のフィーリングなのだ。ミカエル・アースの「サマーフィーリング」から受けるフィーリング、映画のタッチ、どれも、いいなあと思う。

☆ 2019年7月6日(土)~ シアター・イメージフォーラムほか全国公開

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