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今週末見るべき映画「ゴールデン・リバー」

――カナダ生まれの作家パトリック・デウィットの小説「シスターズ・ブラザーズ」(東京創元社・茂木健 訳)が原作の映画化だ。アメリカがゴールド・ラッシュで大騒ぎの頃、殺し屋のイーライとチャーリーのシスターズ兄弟が、黄金を見分ける液体を作った男と出会い、黄金を手に入れようとする。

(2019年7月9日「二井サイト」公開)

原作が痛快だ。

 カナダの作家、パトリック・デヴィットの小説「シスターズ・ブラザーズ」は、1851年の冬、ゴールド・ラッシュに沸くアメリカで、チャーリー・シスターズと、イーライ・シスターズの殺し屋兄弟が、オレゴンのボスから、ある男の殺害を頼まれ、サンフランシスコに向かう。

 原作では、弟イーライの一人称で語られる。映画では、兄弟の名前が逆で、兄がイーライ、弟がチャーリーだ。

 また、兄弟の性格も、原作と映画ではいささか異なっているが、原作と映画の相違点を見つけるのもまた、一興だろう。

 原題の「シスターズ・ブラザーズ」とは、なんとも人を食ったようなタイトルだが、映画の邦題は「ゴールデン・リバー」(ギャガ配給)だ。いわば、「黄金探し」の西部劇で、「川」も出てくるので、格段、凝った邦題でもない。

 資料では、フランス、スペイン、ルーマニア、ベルギー、アメリカの合作となっている。

 2011年、原作に惚れ込んだ俳優のジョン・C・ライリーと、ライリー夫人のプロデューサー、アリソン・ディッキーが、映画化権を取得する。ライリーらは、フランスのジャック・オーディアール監督の「きみと歩く世界」を見て、演出を依頼する。すでに原作を読み、魅せられていたオーディアールは、脚本にも参加。原作とは、登場人物の性格など、異なる点も多々あるが、骨格、構造はほぼ原作の結構を引き継いでいる。

 ゴールド・ラッシュに沸くアメリカ。オレゴンのある町に、腕利きの殺し屋のシスターズ兄弟がいる。兄はイーライ(ジョン・C・ライリー)、弟はチャーリー(ホアキン・フェニックス)。弟のチャーリーは、粗雑だが度胸があり、提督のお気に入りだ。兄のイーライは、心やさしく、なにかと問題の多い弟の身の回りの面倒をみている。 兄弟は、町を仕切る提督(ルトガー・ハウアー)から、ある男の始末をいいつかる。連絡係のモリス(ジェイク・ギレンホール)と会い、モリスが捜索しているウォーム(リズ・アーメッド)を処分することである。兄弟は、一路、サンフランシスコに向かう。

 その頃、モリスは、金脈を採掘しているウォームと出会い、意気投合、ジャクソンビルでの砂金探しに出向くことになる。ウォームは、川の砂金を一目で見分ける液体の化学式を知る化学者だ。モリスは、旅を続ける兄弟宛に、「急ぐように」との手紙を残す。やがてモリスは、「金儲けじゃない、暴力に支配されない社会にしたい」と言うウォームに、心酔していく。

 紆余曲折、黄金への欲望は、人間を極端に変えてしまう。結果的に、兄弟とモリス、ウォームの4人は、ウォームの作った「液体」で、黄金を手に入れようとするのだが……。

 ジョン・C・ライリー、ホアキン・フェニックス、ジェイク・ギレンホール、リズ・アーメッドが、絶妙のアンサンブルを見せる。

なかでは、映画化を真っ先に熱望した、兄イーライ役のジョン・C・ライリーが、バラエティ豊かな芝居を披露する。女性からもらった赤いスカーフの匂いを嗅ぐ。初めて歯ブラシを使う。蜘蛛が口の中に入る。原作の第1部でも描かれる馬へのこだわり。そして、終盤のアクション。かっこいいこと、この上ない。もちろん、ほかの3人にも、適当な見せ場が、ちゃんと用意されている。

 フランス人が、主にフランスのスタッフとともに撮った西部劇だ。映画がおもしろければ、国籍などは、どうでもいいだろう。イタリアで撮ったのが、マカロニ・ウエスタンなら、これは主にスペインで撮影したようで、いわば、マカロニよりもコクのある、パエリヤ・ウエスタンか。

 カメラが格段にいい。暗部と光のあるシーンそれぞれでの陰影が、くっきり。だから、暗部のモノトーンは渋く、色彩は鮮やか。撮影のブノワ・デビエが、オーディアール監督の依頼に、しっかりと応える。

 「預言者」で、カンヌ国際映画祭のグランプリ、「ディーパンの闘い」では、パルム・ドールを受けたオーディアール。本作では、第75回ヴェネチア国際映画祭の監督賞にあたる銀獅子賞を受けている。

 黄金を前にして、人間はなんと愚かなことをするのか。権力もまたしかり。ジョン・アクトンは、手紙に書く。

「権力は腐敗の傾向がある。絶対的な権力は、絶対的に腐敗する」

 黄金と権力を手にしたところから、人間の堕落、腐敗が始まる。パトリック・デウィットは、深刻な状況を、愁いあるユーモアというオブラートで包み、さまざまな人間のさまざまな感情を、繊細に描いた。その思いがジョン・C・ライリーに伝わり、ジャック・オーディアールが造型する。優れた小説は、娯楽小説でもある。優れた映画は、娯楽映画でもある。先週の公開だが、長く公開されることを祈る。

☆ 2019年7月5日(金)~ TOHOシネマズシャンテほかにて公開中

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