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今週末見るべき映画「北の果ての小さな村で」

――世界一大きな島グリーンランドの、人口80人の小さな村の小学生に、デンマーク語を教えるために、アンダースという若い青年教師が赴任してくる。子どもたちは、言葉、習慣、考え方が異なる。教えるはずのアンダースは、逆に、グリーンランドの人たちから、この地で生きることの意味を学ぶことになる。

(2019年7月30日「二井サイト」公開)

昔、世界地図を見るのが好きだった。

 北のほうに、グリーンランドという大きい島がある。北のほうにあるのに、きっと緑豊かな島なんだろうと思っていた。

 ところが、氷と雪原ばかりの島ではないか。なぜ、グリーンランドというのか。

 また、デンマーク領、と書いてある。デンマークを地図で見ると、小さな国だ。なぜ、こんな小さな面積の国が、こんな大きな島を領有しているのか。素朴な疑問だったが、少し調べると、この疑問は解けた。

 グリーンランド東部の小さな村、チニツキラーク。辺りいちめん、雪原だ。80人ほどが、色鮮やかな塗装を施した家で暮らしている。

 デンマーク語を教えるべく、28歳の青年アンダース(アンダース・ヴィーデゴー)が、村にやってくる。 映画「北の果ての小さな村で」(ザジフィルムズ配給)が、この7月27日(土)から公開されている。

 アンダースは、デンマークの実家の農場を継ぐ気になれず、はるかグリーンランドにやってくる。10人ほどの小学生にデンマーク語を教えようとするが、子どもたちの言葉はバラバラ、生活習慣も異なる。「デンマーク語など、習う必要がない」とさえ、言う人もいる。アンダース先生の授業が、うまくいくわけがない。

 ある日、生徒たちの描いた家族の絵を見たアンダースは、びっくり仰天する。子どもたちの多くは、両親と暮らしていない。アンダースは、村での生活全般のめんどうをみてくれているジュリアス(ジュリアス)に言う。「デンマークでは、あり得ない」と。「ここでは、珍しいことではない」とジュリアス。

 生徒のアサー(アサー・ボアセン)が、ずっと、学校に来ない。アサーの家を訪ねたアンダースは、アサーが祖父ガーティ(ガーティ)といっしょに、犬ゾリに乗って、狩りに出かけていたことを知る。

「狩りも大事だが、勉強も大事。町の中学に行くと、苦労する」とアンダース。祖母のトマシーネ(トマシーネ)が切り返す。「アサーの夢は猟師になること。人生に必要なことは、すべて、祖父が教える」と。

 子どもたちは、学校などに興味はなく、大事と思っていない。保護者さえ、約束を守らない。アンダースは、孤立していく。挨拶もされない。パーティにも呼ばれない。

 吹雪の日々が続く。アンダースの家のストーブが故障する。「部品を取り寄せるには日数が……」と言うジュリアスに、「こんなことなら帰国する!」と、アンダースは切れてしまう。

 そんな折、アンダースは、ベテランの猟師トビアス(トビアス)から、小さいころの狩りの体験談や、昔からの言い伝えなどを聞かされる。これを契機に、アンダースは、村にとどまり、一歩、踏み出そうとする。

 グリーンランドは、いま、デンマークの自治領で、自治の範囲を広げつつある。天然資源が豊富にあり、イギリスや中国などが、この資源に、深い関心を寄せているようだ。いずれ、グリーンランドは、デンマークから独立するだろう。

 映画の背景には、政治の問題があるものと思うが、映画そのものは、露骨に同化政策に踏み込まない。むしろ、政治から離れて、爽やかな作り。同化政策に逆らうかのように、アンダースは、グリーンランドの文化にとけ込もうとする。オーストラリアがアボリジニを、スウェーデンがサーミを同化させようとした強引さは、まったく感じさせない。

 脚本、監督は、フランス人のサミュエル・コラルデ。2年もグリーンランドのあちこちを旅するほどで、たまたま、映画の舞台となったチニツキラークで、デンマークから新しい教師が赴任するという情報をキャッチし、映画化を目指す。

 映画は、新任の教師アンダース・ヴィーテゴーに、そのまま演じさせ、登場する村の人たちも、同じ人物が演じる。まるで、ドキュメンタリー映画の体裁だ。

 荘厳なオーロラ、フィヨルドの絶景など、度肝を抜くようなシーンが出てくる。ソリを弾く犬たち、北極グマなど、生きとし生けるものの営みが圧巻だ。撮影もまた、監督自らが担当する。

地球には、さまざまな場所で、多くの人が住み、その暮し方は千差万別。文明の威力で、自然な暮らしや、人間の生き方まで変えられるのは、まっぴら御免、あるがままで、いいのではないか。

 国土の80パーセントが、万年雪や氷に覆われ、日本の約6倍もの面積の広大なグリーンランドにも、少しずつだが、文明の波が押し寄せていて、経済や教育などの格差が生じている。

 それでもなお、サミュエル・コラルデが、グリーンランドに魅せられたのは、グリーンランドの先住人たちと狩りや釣りをし、アザラシやクジラを食べ、共に多くの時間を共有したからだけではない。ここには、いまだ、文明の垢にまみれない、素朴で豊かな、人の営みが存在しているからなのだろう。

☆ 2019年7月27日(土)~ シネスイッチ銀座ほか全国順次ロードショー

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