友人Mさんへの手紙 「第32回東京国際映画祭」を振り返る
Mさん。二井です。今年も会期中はお世話になりました。もともとのお祭り好き。生まれ育った大阪の天神祭が近づいてくると、もう、うれしくてうれしくて、心うきうきでした。
六本木ヒルズの映画祭会場付近も、ただ歩いているだけで、「映画祭って、いいなぁ」と、心うきうきでした。
今日は11月4日(火)です。明日、東京グランプリの発表ですね。
今年のコンペティション作品は
14本。今年は、なんとか11本、見ました。これがコンペ!と呆れる作品はなかったですが、これは大傑作!という作品もありませんでした。
それでもAランクは3本。昨年に続いて、ABCDの4段階で採点しました。見ていない作品は―印です。
●「列車旅行のすすめ」(スペイン、フランス) B
●「アトランティス」(ウクライナ) C
●「喜劇 愛妻物語」(日本) ―
●「チャクトゥとサルラ」(中国) A
●「ディスコ」(ノルウェー) ―
●「湖上のリンゴ」(トルコ) B
●「ジャスト 6.5」(イラン) B
●「ラ・ヨローナ伝説」(グアテマラ、フランス) B
●「マニャニータ」(フィリピン) A
●「ネヴィア」(イタリア) C
●「動物だけが知っている」(フランス) B
●「ばるぼら」(日本、イギリス、ドイツ) ―
●「戦場を探す旅」(フランス、コロンビア) C
●「わたしの叔父さん」(デンマーク) A
ぼくが審査員なら、今年の東京グランプリは、デンマークの「わたしの叔父さん」です。獣医を夢みる若い女性クリスは、体の不自由な叔父さんの面倒を見ながら、牧畜を手伝っている。教会に通うヨハネスが、クリスを食事に誘う。小さな規模の酪農業が衰退するなか、クリスの選んだ人生とは・・・。寡黙なヒロインの表情が、とても雄弁。叔父さん役は、クリスを演じたイェデ・スナゴーのほんとうの叔父さんで、演技未経験なのに、リアリティたっぷりでしたね。
中国の「チャクトゥとサウラ」にも、心ふるえました。厳しい自然のモンゴルの草原で、羊を飼う若い夫婦がいる。夫のチャクトゥは、都会に憧れているが、妻のサルラは、いまの生活に満足している。ところがいまや、モンゴルの平原には、さまざまな変化が迫ってきます。
もう一本のA評価は、フィリピンの「マニャニータ」です。スナイパーとして軍歴のある若い女性が除隊となり、酒におぼれる日々を過ごしている。ある電話がきっかけで、ヒロインの運命が動き出します。これまた、寡黙なヒロインの表情が多くを物語り、深い余韻を遺してくれます。
A評価の3本は、まだ配給が決まっていないようですが、一般公開になると、いずれも再見したいです。
アジアの新鋭監督たちによる「アジアの未来」部門では、3本、見ました。やはり、AからDまでの4段階で評価しました。
●「失われた殺人の記憶」(韓国) C
●「夏の夜の騎士」(中国) B
●「ファストフード店の住人たち」(香港) B
「日本映画スプラッシュ」部門では、「れいわ一揆」(日本)を見ました。評価はA。「ニッポン国VS泉南石綿村」を撮った原一男監督が、先般の参議院選挙で、れいわ新選組から立候補した安富歩さんの選挙運動に密着したドキュメンタリー。
原監督の国家権力への批判は的確で、ブレがない。日本は「立場主義人民共和国」だという表現に、おもわず相槌を打ちました。
「特別招待作品」部門では、すでに試写で見た作品を含めて、3本、見ました。
●「オーバー・エベレスト 陰謀の氷壁」(中国、日本) C
●「グレタ GRETA」(アイルランド、アメリカ) B
●「マリッジ・ストーリー」(アメリカ) A
「GRETA グレタ」はB評価ですが、イザベル・ユペールが画面に映っているだけで、恐怖が増し、限りなくAに近いBランク。「マリッジ・ストーリー」は、才人ノア・バームバック監督の新作。別居夫婦が、まだ幼い子どもをめぐっての争奪戦を繰り広げる。夫アダム・ドライバーと、妻スカーレット・ヨハンソンの凄絶なセリフの応酬が、お見事でした。
毎年、楽しみにしている「ワールド・フォーカス」部門は、今年は、3本しか見られませんでした。
●「ファイアー・ウィル・カム」(スペイン、フランス、ルクセンブルグ) B
●「ゴーストタウン・アンソロジー」(カナダ) C
●「サイエンス・・オブ・フィクションズ」(インドネシア、マレーシア、フランス) B
「ワールド・フォーカス」部門で、見たかったのは、Mさんがご覧になった、オリヴィエ・アサイヤス「WASP ネットワーク」(フランス、スペイン、ブラジル)と、チョン・モンホン監督の「ひとつの太陽」(台湾)、ヨン・ファン監督のアニメーションの「チェリー・レイン7番地」(香港、中国)。いずれ、一般公開されると思いますが、そのときは、必ず、見るようにします。
「CROSSCUT ASIA」部門は、2本、見ました。
●「フォックストロット・シックス」(インドネシア) C
●「停止」(フィリピン) A
ラヴ・ディアス監督の「停止」は、4時間43分の大作。上映中、5、6分でしょうか、映像がタイトル通り、停止。1分間、遡っての上映で、正味4時間50分ほどになりました。登場するほとんどの人物が、不幸な政治の歴史に翻弄されます。もう少し、短く編集できるとも思いましたが、過去の監督作の映画文法からすると、これだけの時間が必要なのかもしれませんね。
最終日の5日、運良く、「特別招待作品」の「アイリッシュマン」(アメリカ)を見ることができました。マーティン・スコセッシ監督が、ロバート・デ・ニーロ、アル・パチーノ、ジョー・ペシといった名優を演出します。全米トラック運転手組合の巨額の資金に群がるマフィアたちを描いて、これはたいへんよく出来た作品でしたね。「アイリッシュマン」と出会えて、ことしの映画のお祭りは、大満足でした。
Mさんは、もっとたくさん見られたことでしょう。また、お話を聞かせてくださいね。とりあえず。
11月5日
二井康雄