「第20回東京フィルメックス」 11/23開幕へ 今年の見どころは?
今年もまた、東京フィルメックスが開催される。
20回の節目だが、声高に20回、20回と叫ばないところが、いい。
会期は、11月23日(土)から12月1日(日)の9日間。会場は、有楽町朝日ホール、TOHOシネマズ日比谷。
アジア映画中心のコンパクトな映画祭だが、なんとなくアットホームな雰囲気で、毎年、楽しみにしている大好きな映画祭だ。
過去、中国のジャ・ジャンクーや、イランのアミール・ナデリといった著名な監督が、気軽にサインに応じてくれる。今年も、見たいなあと思う作品が、多く集まった。
毎回の見どころは、広域アジアの新鋭たちが、2018年から2019年にかけて製作した作品で賞を競うコンペティションで、今年は約400作品から10作品が選ばれた。ざっと眺めてみよう。
◎「水の影」 (インド)
若い男とその先輩の男が、若い女性を車に乗せて、ドライブに出る。途中、モーテルに泊まることになり、予想しがたい展開になる。インドに根深い女性問題がくっきり。監督は、サナル・クマール・シャシダラン。
◎「昨夜、あなたが微笑んでいた」 (カンボジア、フランス)
舞台はカンボジアのプノンペン。60年代の集合住宅が取り壊しになる。いまだここに住む人たちの暮らしを、丁寧に映し撮ったドキュメンタリー。監督は、ニアン・カヴィッチ。
◎「熱帯雨」 (シンガポール、台湾)
「イロイロ/ぬくもりの記憶」のアンソニー・チェン監督の2作目で、中学生と担任の女性教師との感情の動きを、繊細に描く。
◎「評決」 (フィリピン)
夫のDVを裁判で訴える妻の奮闘を真っ正面から捉える。ブリランテ・メンドーサがプロデュースで参加。監督はこれが長編デビューになるレイムンド・リバイ・グティエレス。
◎「ニーナ・ウー」 (台湾、マレーシア、ミャンマー)
舞台は台湾の映画界。主役の座を射止めた女優が、周囲の圧力で精神的に追い詰められていく心理サスペンス。監督はミディ・ジー。
◎「気球」 (中国)
チベットの大草原に暮らす家族に、中国の一人っ子政策がどのような影響を及ぼしたのかを描く。ペマツェテン監督は、前作「轢き殺された羊」の主人公を演じたジンパを主役の父親役に起用。チャレンジ精神にあふれた監督の手腕に期待大。
◎「春江水暖」 (中国他)
舞台は、風光明媚な杭州の富陽。四季折々、ある家族の変遷をゆったりと辿る。横移動を多用するカメラが、まるで絵巻物を見ているような効果を生む。監督は、グー・シャオガン。
◎「波高(はこう)」 (韓国)
「ムサン日記/白い犬」を撮ったパク・ジョンボムの監督第3作目。過疎の小さな島に赴任した女性警官の視点を通して、閉鎖的な村社会の実態が浮き彫りになる。ロカルノ映画祭で、審査員特別賞を受賞。
◎「静かな雨」 (日本)
原作は宮下奈都の小説。大学で助手をしている行助と、鯛焼き屋を営むこよみが親密になろうとするが、ある交通事故がきっかけで、運命は転んでいく。主演は仲野太賀と、映画初出演になる、乃木坂48の衛藤美彩。監督は中川龍太郎。
◎「つつんで、ひらいて」 (日本)
装丁で著名な菊地信義のブックデザインの仕事ぶりを詳細に描いたドキュメンタリー。すでに12月上旬に公開が決まっていて、試写で拝見。紙の書籍にこだわる菊地の手仕事に驚く。監督は、昨年のフィルメックスでコンペ上映された「夜明け」の広瀬奈々子。
以上10作品から、最優秀作品賞、審査員特別賞、観客賞が選ばれる。今年の審査員は、イランの女優ベーナズ・ジャファリ。香港の映画監督で脚本家、プロデューサーでもあるシュウ・ケイ。日本の写真家、繰上和美。カザフスタンの女優サマル・イェスリャーモワ。そして、映画監督の深田晃司。
特別招待作品には、個性豊かな監督の力作が集結。オープニング作品は、ロウ・イエ監督の「シャドウプレイ」 (中国)。 警察と建設業界の癒着を知った刑事が、香港に逃れる。刑事は、建設業界の大物の死の謎を知る女性と出会うのだが……。
クロージング作品は、ウェイン・ワン監督の「カミング・ホーム・アゲイン」 (アメリカ、韓国)。韓国系のアメリカ人作家が、母親から韓国料理のレシピを教わる。作家に家族の過去の出来事や、思い出がよみがえってくる。
そのほか、
◎「完全な候補者」 (サウジアラビア、ドイツ)
「少女は自転車に乗って」の女性監督ハイファ・アル=マンスールの新作だ。若い女性医師が、男性社会を承知で、ある委員に立候補する。ヴェネチア国際映画祭のコンペティション作品。
◎「ヴィタリナ(仮題)」 (ポルトガル)
出稼ぎでポルトガルにいる夫が死んだとの知らせで、カーボ・ヴェルデからポルトガルにやってくる妻。妻は、夫の生活がどのようなものだったかを、いろんな人に尋ね歩く。ペドロ・コスタ監督は、前作「ホース・マネー」に出ていた女優ヴィタリナ・ヴァレラを起用、ヒロインの深い哀しみが伝わってくる。
◎「ある女優の不在」 (イラン)
著名な女優が、女優志望の少女から、自殺予告の映像を受ける。女優は少女の住む村に出向くが、その途中で、活動停止を受けた伝説的女優の姿が浮かび上がる。すでに試写が回っていて、拝見。映画製作を禁じられているジャファル・パナヒ監督が、隠されたイラン映画史を明るみに出そうとする力作。
◎「夢の裏側~ドキュメンタリー・オン・シャドウプレイ」 (中国)
検閲のため、完成の遅れた映画「シャドウプレイ」のメーキングで、製作準備から公開までを記録したドキュメンタリー。マー・インリー監督のロウ・イエ監督へのリスペクトに満ちている。
特別招待作品の「フィルメックス・クラシック」では、4本が上映される。
◎「牛」 (イラン・・1969年)
イラン映画史に新しい波をもたらしたダリウシュ・メールジュイ監督の風刺コメディ。愛する牛を失った男が錯乱、自分を牛だと思いこむ。主演は名優、エザトラー・エンテザミ。
◎「HHH:侯孝賢」 (フランス、台湾・1997年)
テレビ・シリーズで、オリヴィエ・アサイヤスが、巨匠といわれている映画監督にインタビューする。ホウ・シャオシェンは、当時、「フラワーズ・オブ・シャンハイ」の脚本を書いていて、この話も登場する。
◎「フラワーズ・・オブ・シャンハイ」 (台湾、日本・1998年)
19世紀末の上海。高級遊楼での人間模様を描いたチャン・アイリンの中国文学「海上花列伝」を、ホウ・シャオシェンが映画化。トニー・レオン、羽田美智子、ミシェル・リーが主演。デジタル修復で、リー・ピンビンの見事な撮影が堪能できる。
◎「空山霊雨」 (台湾・1979年)
明朝時代、三蔵法師の教典をめぐっての争奪戦を、みごとなカンフー・アクションで描くキン・フー監督作品。これまた、デジタル修復版での上映だ。
今年の特集上映は阪本順治監督で、4本の上映。「鉄拳」(1990年)、「ビリケン」(1996年)、「KT」(2000年)、「この世の外へ クラブ進駐軍」(2000年)。大阪出身の監督だけに、大阪を舞台にした作品は、ひときわ精彩を放つ。
もうひとつの特集上映企画は、「歴代受賞作人気投票上映」」だ。昨年に実施した、歴代受賞作の人気投票で上位を占めた3作品の上映だ。
◎「ふたりの人魚」 (中国・2000年) ロウ・イエ監督
◎「息もできない」 (韓国・2008年) ヤン・イクチュン監督。
◎「ふゆの獣」 (日本・2010年) 内田伸輝監督。
見てみたい、またもう一度見たい作品がズラリ。今年は、ゲストとして、オリヴィエ・アサイヤス監督、ペドロ・コスタ監督らもフィルメックスに参加。開幕が楽しみだ。
※ 画像は、第20回東京フィルメックスのパンフレットより。