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今週末見るべき映画「パラサイト 半地下の家族」

 ――第72回カンヌ国際映画祭でパルムドールを受けた韓国映画だ。半地下の貧しい家に住む一家は、内職だけで細々と暮らしている。あるきっかけで、長男が豪邸に住む娘の家庭教師を引き受けることになるのだが……。

(2019年12月26日「二井サイト」公開)

とにかく、面白い。「パラサイト 半地下の家族」(ビターズ・エンド配給)は、一見、コメディかと思いきや、ドラマの中程から、スリル満点のホラーに様変わり。予測不能な鮮やかな展開に、観客を巻き込んでいく。

 もはや、完璧なエンタテインメントで、しかも、韓国の格差社会をリアルにあぶり出すという、社会的な側面も持ち合わせている。これが、最近の優れた韓国映画の特徴かもしれない。

 映画の資料に、監督のポン・ジュノが、「お願い」を書いている。

「本作をご紹介いただく際、出来る限り兄妹が家庭教師として働き始めるところ以降の展開を語ることは、どうか控えてください」とある。控えたい、と思う。

 半地下の貧しい家に、キム・ギテク(ソン・ガンホ)の一家が住んでいる。いくつかの事業に手を出したが、うまくいかず、いまは失業の身だ。元ハンマー投げの選手だった妻のチュンスク(チャン・ヘジン)は、つい、夫につらくあたっている。頭のいい息子のギウ(チェ・ウシク)は、目下、浪人中。美大を目指している娘のギジョン(パク・ソダム)もまた浪人中で、予備校にも行けないほどの貧乏家族である。

 半地下の家は、窓から、ちょうど地上を見上げることになる。窓の外では、酔っぱらいが、いつも立ち小便をする。消毒の粉末は、窓の隙間から入ってくる。スマホの電波状態もよくない。トイレは、水圧の関係で、家のなかのいちばん高いところにある。

 一家は、内職で宅配ピザの箱を組み立てているが、不良品が多く、ピザ屋から叱責されてばかり。

そんなある日、ギウの友人ミニョク(パク・ソジュン)が、交換留学のため、しばらくいなくなる。家庭教師で女子高生を教えているミニョクは、「おまえなら、信じられる」と、留守のあいだの家庭教師をギウに依頼する。

 ギウが出かけた先は、丘の上にある豪邸で、現在、住んでいるのは、IT企業の社長をしているパク・ドンイク(イ・ソンギュン)の家族だ。ギウを迎えたのは、若くて美人のパクの妻ヨンギョ(チョ・ヨジュン)だ。ギウが教えるのは、女子高生のダヘ(チョン・ジソ)で、どうやら、ギウは気に入られたようだ。

 パク家には、いささか風変わりの末っ子のダソン(チョン・ヒョンジュン)がいる。ギウは、妹のギジョンを、自分の後輩と偽り、ダソンの美術の家庭教師に仕立て上げる。

 ギウとギジョンは、たちまちのうちに、パク家の信頼を獲得していくことになる。

 ここまでは、ドラマのほんのとば口。映画のタイトル通り、ここから「パラサイト」(寄生)がスタートすることになるのだが、どのように、半地下に住む貧しい家族が、高台の豪邸に住む家族に、寄生していくのだろうか。

 それにしても、なんという格差だろう。この11月に公開された、やはり韓国映画の「国家が破産する日」を見た。ここでは、1997年のIMF経済危機を正面から描いていたが、以来、韓国での経済格差がさらに拡大されていったという。

今年のカンヌ国際映画祭は、パルムドールに、本作を選んだ。世界に共通する社会背景を、エンタテインメントたっぷりで描いたのだから、当然かもしれない。

 面白い映画ではあるが、裕福さとは縁のない身としては、ただ面白がってばかりではいられない。日本の政治環境は最悪で、さらに悪くなるようである。ふと思う。これからの近未来、どうやって、暮らしていけるのだろうか、と。

 脚本を書き、監督したポン・ジュノは、「吠える犬は噛まない」「殺人の追憶」「母なる証明」「スノーピアサー」などを撮っている。どのようなジャンルの映画を撮っても、ハズレがない。監督が、本作に寄せたコメントにこうある。

――回避不能な出来事に陥っていく、普通の人々を描いたこの映画は「道化師のいないコメディ」「悪役のいない悲劇」であり、激しくもつれあい、階段から真っ逆さまに転げ落ちていきます――。

 俳優もまた達者揃い。もはや名優のソン・ガンホの立ち居振る舞いが、観客を引きつける。さらに、チャン・ヘジン、チェ・ウシク、パク・ソダム、パク・ソジュン、イ・ソンギュン、チョ・ヨジュンなどなど、とにもかくにも、芝居が巧み。

 ひときわ、印象に残るのは、パク家の家政婦に扮したイ・ジョンウンだろう。「タクシー運転手~約束は海を越えて~」「焼肉ドラゴン」「母なる証明」にも出ている名脇役だ。

 拡大する経済格差は、韓国だけではない。もはや、世界のあちこちに、格差が拡大しているようだ。是枝裕和監督の「万引き家族」しかり、ケン・ローチ監督の「わたしは、ダニエル・ブレイク」「家族を想うとき」もまた、格差による貧困を真摯に捉えた映画ではなかったか。

 ソン・ガンホ扮するキム・ギテクが述懐する。「計画を立てると必ず、人生、その通りにいかない」

 いまという時代を象徴する、実に重みのあるセリフだ。

 この年末年始、強力に「見るべき」とお勧めしたい。

☆ 2019年12月27日(金)~2020年1月9日(木)、TOHOシネマズ日比谷、TOHOシネマズ梅田にて特別先行公開。その後、1月10日(金)より全国公開

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