今週末見るべき映画「フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて」
――イギリスのコーンウォール州に実在する漁師たちのコーラスグループがモデルだ。ざっと10人ほどの漁師仲間は、ワークソングともいえる舟歌を唄い、深い絆で結ばれている。そこに、レコードデビューをしないかとの話が舞い込んでくる。さて……。
(2020年1月8日「二井サイト」公開)
2020年の初笑い、初泣き、初感動できるのが、イギリスの映画「フィッシャーマンズ・ソング コーンウォールから愛をこめて」(アルバトロス・フィルム配給)だ。
映画の舞台は、イギリス南西部にあるコーンウォール州のポート・アイザックで、大西洋に面した、小さな漁業の町だ。
2010年、ロンドンの音楽業界で、ほどほどに実績のあるダニー(ダニエル・メイズ)とその仲間たちは、結婚間近の仲間の独身最後のお祝いを楽しもうと、ポート・アイザックにやってくる。
ダニーたちは、港にいる漁師たちが、いろんな舟歌を、楽しそうに唄っている場に出会う。いかつい漁師たちの外見と違って、美しいハーモニーに、ダニーは聴き惚れてしまう。ダニーの上司は、冗談半分で、「連中と契約しろ」と命じる。
日本でも、北海道の「ソーラン節」、千葉の「大漁節」、宮城の「斎太郎節」、鳥取の「貝殻節」といった、漁師たちの唄う民謡があるが、こういった民謡、ワークソングを、見事に唄うグループがある、と思えば分かりやすいだろう。
「フィッシャーマンズ・フレンズ」と名乗る、10人ほどの漁師たちのコーラスグループのリーダーは、かなり頑固者のジム(ジェームズ・ビュアフォイ)だ。彼らは、週に一回、チャリティのコンサートを開催しているが、あくまでも趣味のつもりでいる。
漁師たちは、毎晩のように、若いメンバーのローワン(サム・スウェインズバリー)が営むパブでビールを呑んで、騒いでいる。そこに、ダニーからのレコーディングの契約話が、舞い込んでくる。よそ者を快く思っていないジムは、ダニーに嫌みばかり並べ、一向に話を聞こうともしない。
仲間においてきぼりにされたダニーは、やむを得ず、ジムの娘で、シングルマザーのオーウェン(タペンス・ミドルトン)が営む民宿に泊まり、なんとか契約話をまとめることにする。
漁師たちは、レーベル契約などには無関心のようで、とにもかくにも、ダニーはいっしょに漁に出て、みんなと打ち解けるように努力を重ねていく。やがてダニーは、漁師たちの固い絆と、音楽を愛する姿勢に魅せられていく。
果たして、ダニーと漁師たちは、厳しい音楽業界に乗り込み、レーベル契約を結ぶことができるのだろうか。
ダニーに扮したダニエル・メイズが、ひょうきんさと真面目さを合わせ持つ中年男を演じて、いい味だ。「ローグ・ワン/スター・ウォーズ・ストーリー」に出ていたが、これは見ていない。
頑固一徹のジム役は、「チャーチル ノルマンディーの決断」や、「ROMA/ローマ」などに出ていたジェームズ・ビュアフォイ。孫のいる老け役だが、リーダー格の立場を、さも楽しんで演じているかのよう。
ダニーと打ち解けていくシングルマザーのオーウェンを演じたタペンス・ミドルトンは、この1月10日公開の「ダウントン・アビー」の映画版や、近く公開の「エジソンズ・ゲーム」にも出ている売れっ子女優だ。
イギリス映画の伝統だろう、全編、ユーモアたっぷりのセリフに満ちている。漁師たち同士はもちろん、べらぼうに音楽に詳しく、威勢のいいオーウェンのセリフに、つい、笑ってしまう。さらに後半では、観客をしっかりと泣かせ、心ふるえる工夫が施されている。
また、ラスト近くには、痛快なシーンがある。漁師たちは、イギリス人であるけれど、まず、コーンウォール人、コーニッシュなのである。イギリスの国歌「ゴッド・セイブ・ザ・クィーン」よりも、コーンウォールを愛する歌「ザ・ウェスタン・マン」を愛していることが分かる。
ともあれ、脚本がいい。ジムやローワンたちのそれぞれの家庭の事情が、短いシーンとセリフから、くっきりと浮かびあがる。漁師たちは、みんなそれぞれ、とっつきにくいけれど、いったん打ち解けると、人情味がたっぷり。そのやりとりは、味わい深い。
共同で脚本を書き、プロデューサーを務めたのはメグ・レナードである。彼女は、実在する合唱バンド「フィッシャーマンズ・フレンズ」をテレビで見て、漁師たちの仲間意識、ユーモア、伝統の虜になったらしい。
監督は、「キッズ・イン・ラブ」のクリス・フォギンで、これが長編の監督第二作目となる。まだ30代半ばだが、渋いユーモアを軽快に伝える演出は、老獪ですらある。
フィッシャーマンズ・フレンズは、もともと、チャリティの資金集めのために1995年に結成され、2010年には100万ポンドの契約で最初のアルバム「ポート・アイザックのフィッシャーマンズ・フレンズ」を出している。
事実に基づいてはいるけれど、巧みに改変したストーリー・テリングで、最後まで、笑わせ、泣かせてくれる。この1月、まず見るべき映画だろう。
☆ 2020年1月10日(金)~ 新宿ピカデリー、ヒューマントラストシネマ有楽町にてロードショー