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今週末見るべき映画「プロジェクト・グーテンベルク 贋札王」

――贋札作りの黒幕をめぐって、ドラマは二転三転、銃撃アクションもたっぷりで、理屈ぬきのおもしろさ。もともと、本物のお札に縁がないせいか、贋札をめぐる話には興味がある。しかも、チョウ・ユンファ、アーロン・クォックが主演、脚本・監督が、傑作「インファナル・アフェア」3部作を手がけたフェリックス・チョンだ。期待大。見るしか、ない。

                       (2020年2月4日「二井サイト」公開)

「画家」と呼ばれる男(チョウ・ユンファ)が、100ドル札の贋札作りのチームを率いている。そこに、画家崩れの贋作の名手、レイ・マン(アーロン・クォック)がスカウトされ、「画家」の贋札製造に関わることになる。

「プロジェクト・グーテンベルク 贋札王」(東映ビデオ配給)は、2018年の第31回東京国際映画祭のワールド・フォーカス部門で、すでに上映された。残念ながら、見逃していたので、このほどの公開は喜ばしい。

 殺人など、さまざまな容疑で、レイは、タイの刑務所から香港警察に移送され、取り調べを受けることになる。そこに、政府要人ともつきあいのある著名な女性画家ユン・マン(チャン・ジンチュー)が現れ、レイの保釈を要求する。

 ホー副署長(アレックス・フォン)は、保釈の条件として、「画家」についての情報提供を要求する。一連の贋札事件で、生き残ったのは、レイと「画家」だけである。また、ホー副署長の娘のホー警部補(キャサリン・チャウ)の恋人は、「画家」グループへのおとり捜査で「画家」に接近したが、殺されている。

 警察は、贋札作りの重要人物なのに、まったく情報のない「画家」と呼ばれている人物についての詳細をレイに問いただす。司法取引に応じたレイが語り出す。

1995年、カナダのバンクーバー。レイと恋人のユンは、画家を目指している。才能あるユンは、個展を開くまでになるが、レイは、アルブレヒト・デューラーが1513年に制作した有名な銅販画「騎士と死と悪魔」といった、有名な画家の、有名な作品の贋作を描いている。

そこに、親子三代、贋札作りに関わっている「画家」が現れる。「画家」はレイの才能を見抜き、「なにごとも極めれば芸術、心をこめれば、本物に勝る」とレイを口説き、仲間に引き込んでしまう。レイの保釈を求めるユンは、レイとの愛の真相を知りたかったと思われる。

 「画家」の仲間は、いろんなジャンルのプロがそろっている。「画家」の狙いは、新しく製造されるアメリカの100ドル札の贋札製造だ。精巧な原版を描き、紙やインクを選ぶ。インクを入手するだけでも、大がかりで、派手な銃撃戦となる。やがて、精巧な贋札が刷り上がる。メキシコ、キューバ、インド、アイルランドと、世界じゅうに売りさばき始める。

 さらに二転三転するドラマは、やっと、ここから展開していく。やがて、レイの自白から、「画家」がどのような人物だったかが、少しずつ露わになっていくのだが……。

 シリアスな展開に徹しているが、まるで「インファナル・アフェア」を想起するシーンがあり、思わずニヤリと笑ってしまう。

チョウ・ユンファが、香港の映画に戻ってきた。「画家」役のチョウ・ユンファは、アクションに年齢は関係ないとばかりに、派手な銃撃戦を楽しんでいるようだ。レイ役は、歌手としても著名なアーロン・クォックだ。得体の知れない役どころのチョウ・ユンファと互角に渡り合う。

 10年ほど前に、イギリスのポンド札の贋札が登場する映画「ヒトラーの贋札」を見たが、これもおもしろかった。第二次世界大戦下のドイツ。イギリスの経済を混乱させようと、大量のポンド札を製造する話だ。本作では、かなり具体的に、贋札の製造過程を詳細に描いていく。モアレという干渉縞の処理、原版の精密さ加減、インク、用紙、透かしの入れ方、最適な印刷機の手配などなど、まるで本物の紙幣を印刷するようで、迫力じゅうぶん。

 脚本、監督のフェリックス・チョンは、日本の松本清張や横溝正史の推理小説が大好きという。そのせいか、虚実ないまぜの巧みなサスペンス構成と、テンポのいい鮮やかなドラマ展開に、冴えをみせる。

 ヘンデルのオペラ「リナウド」の第2幕4場で唄われる有名なアリア「私を泣かせてください」が、効果的に引用される。「涙の流れるままに むごいこの運命を嘆かせてください 自由にあこがれるままにさせてください……」。そのほか、バッハの「G線上のアリア」、スキーター・デイヴィスが大ヒットさせた「この世の果てまで」など、選曲センスが秀逸。

 ともかく、2時間10分、息つくひまもないほどのエンタテインメント。おもしろい。楽しめる。

☆ 2020年2月7日(金)~ 新宿武蔵野館、丸の内TOEIほか 全国順次公開

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