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今週末見るべき映画「コロンバス」

――コロンバスという地名はアメリカのあちこちにある。映画「コロンバス」は、モダンな建築群で有名なインディアナ州のコロンバスが舞台だ。建築オタクの若い女性と、韓国系の中年男が知り合う。教会、図書館、シティホール、病院、銀行など、ふたりの話題の中心は、建築についてだ。一見、ラブストーリーを予感させるのだが……。

                      (2020年3月9日「二井サイト」公開)

静謐そのもの。あちこちにモダンな建築のある小さな町で、美しく、落ち着いた佇まいのコロンバス。映画「コロンバス」(ブロードウェイ配給)もまた、町と同様、静かで美しいトーンに満ちている。

 教授と呼ばれている男が、モダンな建物のミラー邸や、図書館を見学している。突然、教授は倒れる。教授の息子で、韓国系アメリカ人のジン(ジョン・チョー)は、入院した父親を見舞うために、コロンバスにやってくる。高名な建築家であるジンの父親が、講演ツアーでやってきたコロンバスで倒れたのだ。

 もう一年も音信不通で、父親との確執を抱えたジンは、いま、英語を母国語に翻訳する仕事を抱えている。複雑な想いのまま、ジンは、コロンバスに滞在することになる。

 図書館に務めている若い女性ケイシー(ヘイリー・ルー・リチャードソン)は、コロンバスの建築について、いろんなことを知っている。本来なら建築関係の仕事に就きたいのだが、薬物中毒の母親がいて、なかば夢を諦めたような日々を過ごしている。

 ジンとケイシーが知り合う。話題の中心は、コロンバスの建築についてだ。建築の話題だけではなく、ジンとケイシーは、問わず語りにそれぞれの身の上を話し始める。

 ただそれだけの話だが、ジンとケイシーの決して満足していない日々が、コロンバスの町で交錯する。ふたりの共通点は、やむを得ずコロンバスに留まらざるをえない理由を抱えていることくらい。

息を呑むようなモダンで美しい建築物が、次々と出てくる。ジョン・F・ケネディ国際空港のTWAターミナルビルで有名なエーロ・サーリネンが設計、アレキサンダー・ジラルドが内装したアーウィン・ミラー邸。ガラスを多用したデザインで、「幾何学の魔術師」と呼ばれたI・M・ペイの設計したクレオ・ロジャース記念図書館。公園の再生を提案し続けているマイケル・ヴァン・ヴァルケンバーグ設計のミル・レース・パーク。

 アメリカでの最大級の建築設計事務所であるスキッドモア・オーウィングス・アンド・メリル所属のマイロン・ゴールドスミス設計のリパブリック新聞社。ガラス張りのファースト・フィナンシャル銀行の設計は、イェール大学建築学部の学部長デボラ・バーク。そのほか、エーロ・サーリネン設計のノース・クリスチャン教会、アーウィン・カンファレンス・センターなどなど。

 ケイシーには、同僚のゲイブ(ロリー・カルキン)というボーイフレンドがいるが、いまひとつ、物足りなさを感じている。ジンは、仕事の催促が届いて、うんざり気味。観客は、そんなふたりに、なにか特別の感情が生まれるかの期待をするが、格別の進展はない。ジンもケイシーも、やがては自らの近い未来を選択することになる。

 小さな町は、あくまでも静か。人通りも少ない。死のイメージすら感じる。だが、しかし、いつ、どんな場所でも、人は生きていて、明日明後日の人生を選びとっていく。そんな当然のことを、ゆっくり、ゆったり、ひたすら美しく、端麗に描いていく。

 監督、脚本、編集は、コゴナダという韓国系のアメリカ人。なんでも、「晩春」から「秋刀魚の味」まで、小津安二郎監督作品で、小津と共同で脚本を書いた野田高梧にちなんでの名らしい。監督自身、小津作品の研究者でもある。

 ジンを演じたジョン・チョーは、2009年の「スター・トレック」のスールー役や、「search/サーチ」でお馴染みだろう。ケイシーを演じたヘイリー・ルー・リチャードソンは、どこかで見た顔と思っていたら、「スウィート17モンスター」に出ていた。主役の女子高生の親友クリスタ役だ。ジョン・チョー、ヘイリー・ルー・リチャードソンは、まだまだ若く、今後が楽しみな俳優である。

特筆すべきは、撮影のエリシャ・クリスチャンで、端正で大胆、多彩なカメラ・アングルが堪能できる。美しい建築物に、人生のある瞬間を切り取ったドラマが溶け込んでいく。若さゆえか、激しく踊るケイシーさえ、コロンバスの町の静謐さに溶け込んでいくかのよう。こんなタッチの映画、いいなあと思う。

☆ 2020年3月14日(土)~ シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開

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