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今週末見るべき映画「凱里ブルース」

――コロナ・ウイルスとやらで、映画業界も大変なことになっています。試写が延期、映画館も一時閉鎖で、公開延期も続出。それでもなんとか、細々ではありますが、優れていると思った映画のレビューは続けていきたいと思っています。で、今週は6月6日(土)公開の「凱里ブルース」から……。

                    (2020年6月5日「二井サイト」公開)

★「凱里ブルース」

 冒頭、「金剛般若経」より、釈迦が須菩提に告げた一節が引用される。

 「……過去の心はとらえようがなく、未来の心はとらえようがなく、現在の心はとらえようがないからだ」と。そのまま映画「凱里ブルース」(リアリーライクフィルムズ、ドリームキッド配給)のテーマを提示する。1989年、中国の貴州省凱里生まれで、まだ若いビー・ガン監督が2015年に撮った作品だ。

なんとも、夢を見ているような、不思議な雰囲気が全編に漂う。とりあえずの舞台は、中国貴州省の凱里。主人公の中年男チェン・シェン(チェン・ヨンゾン)は、老女医(ヅァオ・ダクィン)と同じ診療所で働いている。チェンは、甥のウェイウェイ(ルオ・フェイヤン)を遊園地に誘う。ウェイウェイの父親で、「クレイジーホース」と呼ばれているチェンの異母弟(シエ・リクサン)は、射的屋を営んでいるが、ほぼ遊び人で、カードやビリヤードに夢中である。

 少しずつ、チェンや老女医の過去が明らかになっていく。チェンは、老女医のある願いを聞き入れる。また、行方不明になったウェイウェイの捜索を兼ねて、チェンは鎮遠という町に出かけることになる。

 映画は、やがて、ストーリーをそのまま追いかけていても、あまり意味のないことが分かってくる。多くの事物が、映画のイメージを示す。いくつか挿入される詩であり、少数民族に伝わる野人の話である。また、ミラーボール、水中に漂う女性の靴、室内の壁に映し出される列車の疾走などが挿入される。時系列が明確でないように意図したのか、記憶や時間を象徴するかのように、さまざまな形で登場する時計などなど。

 そして、チェンを乗せた列車は、鎮遠に向かう。だが、しかし、旅の途中で、チェンは、ダンマイという不思議な町に辿り着く。

 チェンを取り巻く映像たちは、夢と現実、過去と現在と未来を行きつ戻りつする。冒頭に引用された「金剛般若経」のように、もはや、過去、現在、未来の心は、とらえようが無くなっていく。

 途中、旅するチェンを追うカメラは、40分ほどの長回しのワンショットだ。このなかで、80年代に活躍した台湾のフォークシンガー、パオメイ・シェンの「リトル・ジャスミン」が、効果的に挿入される。

 監督のビー・ガンは、本作を26歳で撮っている。後に撮ることになる傑作「ロングデイズ・ジャーニー この夜の涯てへ」の、いわば前触れ、すでに才気煥発だ。深い映画的履歴を思わせ、詩作の才能に秀で、もはや熟練ともいえる。それにしても、この若さで、なんという才気だ。

☆ 2020年6月6日(土)~ シアター・イメージフォーラムほかにて全国順次公開!

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