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今週末見るべき映画「ホドロフスキーのサイコマジック」

 ――今週もまた、先週に続いての2本立て。映画興行は再開されていますが、当分は、座席数が約半分という状態のようです。早く、定員通りの座席数での公開になって欲しいものですね。今週は、6月12日(金)公開の、「ホドロフスキーのサイコマジック」から。

(2020年6月11日「二井サイト」公開)

★「ホドロフスキーのサイコマジック」

 大袈裟にいえば、チリの映画作家アレハンドロ・ホドロフスキーの、こころを病んだ人たちへの、限りない愛と優しさにあふれた映画だ。「ホドロフスキーのサイコマジック」(アップリンク配給)は、さまざまな理由で、人生に悩み苦しむ人たちに、「サイコマジック」という、ホドロフスキー監督独自の方法で、治療を施すプロセスを丹念に描いていく。

 映画は、プロローグと、10組の人たちの現実と治療法が詳細に描かれ、感動的なエピローグが添えられる。

 プロローグでは、ホドロフスキー監督自身が、「サイコマジック」とはどのような治療法かを説明する。一般の精神分析との違いが示される。

 ホドロフスキー自身の文章がある。「サイコマジックは話すだけではなく、行動を起こすことを提唱している。相談者は精神分析の方法論とは正反対の道を辿り、無意識に合理的な言語を話すことを強いるのではなく、言葉だけでなく、行動やイメージ、音、臭い、味、触覚などで構成されている無意識の言語があることを学んでいく」

 なんだか難解そうだが、ふつうの精神分析とちがって、治療方法は、多岐にわたるようだ。

 二、三の事例をみてみよう。場所は、スペインのエル・エスコリアル。フェリペ2世が建立したスペイン王家の墓所や大きな修道院を見下ろす高台だ。フェリペ2世が、この高台の石の椅子に座り、修道院工事の進展を見下ろしていたと聞いている。

 父親からひどい虐待を受けた中年男は、自殺まで考えている。高台に横たわった男の胸の上に何枚かの皿を置いて、ハンマーで割る。ホドロフスキーは、男の顔だけを残して、男の体を埋める。穴の周囲に肉をばらまき、ハゲタカを寄せ集める。その後、男を全裸にして、大量のミルクをかける。ホドロフスキーの映画「エンドレス・ポエトリー」のあるシーンが引用される。

 夫婦関係が絶望的になったカップルがいる。カップルの偽の両親役をホドロフスキーたちが演じ、みんなは裸でじゃれあい、両親から虐待された妻は、幼児に戻ることで癒されていく。ホドロフスキーの「ファンド・アンド・リス」のあるシーンが引用される。

 うつ病の88歳の老女がいる。21日間、瓶に汲んだ水を樹齢300年の木に捧げる。ホドロフスキーは、世をはかなんでいた老女を、固く抱きしめる。ホドロフスキーの「ホーリー・マウンテン」のあるシーンが引用される。

 そのほか、さまざまな現世に悩みを抱えた人たちが、続々と登場する。ホドロフスキーたちは、その都度、異様とも思える方法で、悩める人たちに「サイコマジック」を施していく。

 そして、どの挿話にも、ホドロフスキーの過去の映画作品のあるシーンが引用される。これは、かつてのほとんどのホドロフスキー作品には、必ず、「サイコマジック」の概念が流れていたことを意味している。

 10篇のエピソードのなかには、一見、目を覆うようなシーンもいくつかあるが、なによりも、悩める人たちに向けるホドロフスキーたちの行動と言葉が、悩む人たちを苦しみから解放させ、胸を打つ。

 圧巻は、エピローグだ。コスタリカ生まれでメキシコで活躍した女性歌手、チャベラ・バルガスの唄う「ラ・ジョローナ」(泣き女)が引用される。人生の悲哀を噛みしめ、泣きじゃくる女性を描いたメキシコの民謡だ。フリーダ・カーロの生涯を描いた映画「フリーダ」でも挿入歌として引用されていた。引用されるシーンは、「エル・トポ」と「ホーリー・マウンテン」である。

 はたと思いいたる。いささか理解しがたいホドロフスキーの多くの映画作品の底には、ホドロフスキーが実践し続けている「サイコマジック」が、深く関わっているのだ、と。

 もちろん、過去のホドロフスキー作品を見ていない人は、本作をご覧になると、必ずや、一連のホドロフスキー作品を見たくなるに違いない。

 人生に悩む人たちに向けたホドロフスキーの、限りない愛と、心ふるえる治療の実践に、胸が熱くなる。

☆ 2020年6月12日(金)~ アップリンク渋谷、アップリンク吉祥寺、新宿シネマカリテほか全国順次公開

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