今週末見るべき映画「あなたの顔」
――続いて、6月27日(土)公開の「あなたの顔」です。以下に。
(2020年6月25日「二井サイト」公開)
★「あなたの顔」
台湾のツァイ・ミンリャンが、ドキュメンタリー映画「あなたの顔」(ザジフィルムズ、トランスフォーマー配給)では、13名ほどの、もう若くはない人間の顔だけを、一人について、ざっと5、6分ほど、撮り続ける。
「えっ、人間の表情だけで、映画になるの?」と思ってしまう。これが、なるんだなあ。しかも、たいへんドラマチックなのである。もはや、フィクション、ドキュメンタリーといった垣根を超えた映像である。
かつて、ツァイ・ミンリャンは、「郊遊」という映画で、リー・カンションの表情の変化を、6分ほどの長回しで撮った。「あなたの顔」では、市井の人12名に加えて、ツァイ・ミンリャン作品の常連、リー・カンションが登場する。13名すべて、表情の変化が豊穣、喜怒哀楽に満ちている。
13名の表情、語られる言葉のささいなことから、その人物の辛い過去、つかの間の喜び、怒りなど、およそあらゆる感情が、その表情に現れ続ける。
登場人物たち顔のしわが、くっきり。もう、老人といえる人たちばかり。どのような人たちかを、ざっと紹介しよう。
目をきょろきょろさせ、照れながら微笑む女性。
涙ぐんでいるような女性は、舌を動かし、顔や頭をマッサージする。
目をつむったままの男性は、居眠りをしているかのよう。
23歳のときに、家族が破産したころの話を始める女性は、自らの離婚について話す。
白髪で大きな目の男性は、目をきょろきょろさせる。
別れた女性について話しだす男性は、「運命は人それぞれ」と達観する。
うつむき加減で、ハーモニカを吹く男性は、涙を流し、また、ハーモニカを吹く。
台北市長の夫妻に気に入られた女性は、一生懸命に働いた仕事の話を続ける。「親不孝だった」「時間の過ぎ去るのはとても早い」と語り、泣き出してしまう。
そして、最後にリー・カンションが登場する。どのような表情で、なにを語るのか。
13人の表情、視線、しわは、あまりにも多くを語り、劇的すぎる。
控えめな音楽は、坂本龍一。「郊遊」は、2013年の第14回東京フィルメックスの特別招待作品として上映され、「あなたの顔」は、2018年の第19回東京フィルメックスの特別招待作品として上映された。いずれも、ツァイ・ミンリャンの傑作と思う。
☆ 2020年6月27日(土)~ シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開