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「第21回東京フィルメックス」開幕!

 ――2020年10月30日(金)から11月7日(土)まで、第21回東京フィルメックスが開催される。コロナ禍にもかかわらず、今年もまた、優れた作品がズラリ。驚くほどのラインナップで、大いに期待できる。


               (2020年10月27日「二井サイト」ブログ公開)


 コンペティションは、広域アジアの新鋭作家たちが、2019年から2020年にかけて製作した作品12本が競う。以下、ざっと紹介しよう。

●「風が吹けば」(フランス、アルメニア、ベルギー) 

 ノラ・マルティロシャン監督。アゼルバイジャンからの独立を主張しているナゴルノカラバフ地区が舞台で、アルメニアとの国境の近く。ここに、戦争で破壊され、停戦後に再建された空港を視察するため、フランス人の技術者が訪れる。

●「死ぬ間際」(アゼルバイジャン、メキシコ、アメリカ) 

 ヒラル・バイダロフ監督。荒涼とした中央アジア。死の影がつきまとう主人公の一日の旅が描かれるが、多くの謎を観客に投げかける。タル・ベーラの薫淘を受けた監督の長編第2作。

●「迂闊(うかつ)な犯罪」(イラン) 

 シャーラム・モクリ監督。1979年のイスラム革命の寸前。ヨーロッパ文化を否定する暴徒が、映画館を焼き討ちにする。さらに40年後、4人の男たちが、さらに映画館の焼き討ちを計画する。

●「イエローキャット」(カザフスタン、フランス) 

 アディルハン・イェルジャノフ監督。舞台はカザフスタンの草原地帯。裏社会から足を洗って、映画館を開こうとする主人公の苦闘を、コメディタッチで描く。

●「マイルストーン」(インド) 

 アイヴァン・アイル監督。北インドが舞台。ひどい腰痛で亡くなった妻の家族への賠償金を払うために、必死で働くトラックの運転手の苦悩が描かれる。

●「アスワン」(フィリピン) 

 アリックス・アイン・アルンパク監督。フィリピンのドゥテルテ政権は、警察に、麻薬患者や売人を射殺する権利を与える。この政策のために苦悩する人たちを追ったドキュメンタリー。タイトルは、フィリピンの民間伝承に出てくる妖怪の名前。

●「無聾(むせい)」(台湾) 

 コー・チェンニエン監督。聾唖学校に転校した少年は、スクールバスで、あるゲームを目撃する。これがきっかけで、次々と、残酷な現実がたち現れる。

●「不止不休」(中国) 

 ワン・ジン監督。お金もコネもない若い新聞記者が、優れたジャーナリストとして成長を遂げていく。ジャ・ジャンクー監督の「罪の手ざわり」以降で助監督を務めたワン・ジンの監督デビュー作。

●「泣く子はいねぇが」(日本) 

 佐藤快磨監督。大人になることを拒否し続ける主人公が、自らの過去と向き合うようになる。主演は仲野太賀、吉岡里帆。

●「きまじめ楽隊のぼんやり戦争」(日本) 

 池田暁監督。戦争が日常という架空の町を舞台に、ちょっとした幸せを感じたり、ささいな苦労を重ねる人たちを、ユーモラスに描く。

●「由宇子の天秤」(日本) 

 春本雄二郎監督。ヒロインの由宇子は、ドキュメンタリー映画の監督で、女子高生の自殺事件を追っている。事件の真相に迫る由宇子は、父から衝撃的な事実を聞かされる。

●「オキナワ サントス」(日本) 

 松林要樹監督。第二次世界大戦のさなか、ブラジルのサントスで起こった日系移民の強制移住事件の移住者の6割が沖縄からの移民だった。沖縄とブラジルとの埋もれた史実に迫るドキュメンタリー。

 以上12作品から、最優秀作品賞、審査員特別賞が授与される。

 特別招待作品は、以下の通り。必見に値する作品がズラリ。

●「愛のまなざしを」(日本) 

 万田邦敏監督。オープニング作品だ。妻を亡くした精神科医の貴志は、いまだショックを抱えている。そんな貴志のもとに、ミステリアスな患者の綾子が現れる。

●「天国にちがいない」(フランス、カタール、ドイツ、カナダ、トルコ、パレスチナ) 

 エリア・スレイマン監督。クロージング作品だ。新作映画の企画の売り込みで、故郷のナザレから、パリとニューヨークに向かう監督が目にしたものとは? 企画が断られた監督は思う。どこへ出かけても同じ、故郷と呼べる場所とはどこなのか、と。第72回カンヌ国際映画祭で、特別賞と国際映画批評家連盟賞を受賞。

●「クラッシュ」(カナダ) 

デヴィッド・クローネンバーグ監督。原作は、J・G・バラードの同名小説。そう重くない自動車事故で、性的興奮を感じる人たちを描く。1996年のカンヌ国際映画祭で審査員特別賞を受賞。今回は4K修復板での上映。

●「デニス・ホー:ビカミング・ザ・ソング」(アメリカ) 

 スー・ウィリアムズ監督。香港の歌手、俳優のデニス・ホーのコンサート映像や、同性愛であることとのカミングアウト、雨傘運動への支援など、デニス・ホ~の実像に迫ったドキュメンタリー。

●「ハイファの夜」(イスラエル、フランス) 

 アモス・ギタイ監督 舞台はハイファのナイトクラブ。ユダヤとアラブの共生は可能なのかを問いかける群像劇。

●「照射されたものたち」(フランス、カンボジア) 

 リティ・パン監督。広島と長崎への原爆投下、ナチスの大量虐殺、カンボジアのポル・ポト政権による虐殺の3つの悲劇の、ぼう大な資料映像を編集したドキュメンタリー。2020年のベルリン国際映画祭で、最優秀ドキュメンタリー映画賞を受ける。

●「日子」(台湾) 

 ツァイ・ミンリャン監督。豪邸で暮らすカンは、首の痛みを治すために、街に出かけてマッサージを受ける。そこに、ある移民労働者が、カンのが宿泊しているホテルに現れる。ツァイ・ミンリャンの最新作。

●「七人楽隊」(香港) 

 アン・ホイ、ジョニー・トー、ツイ・ハーク、サモ・ハン、ユエン・ウーピン、リンゴ・ラム、パトリック・タム監督。ジュニー・トーの誘いで、香港の映画監督7人が結集する。香港に暮らす人たちの暮らしぶりを、それぞれの視点から描いたオムニバス映画。

●「海が青くなるまで泳ぐ」(中国) 

 ジャ・ジャンクー監督。映画「活きる」の原作者ユェ・ホァを筆頭に、世代の異なる4人の作家に、ジャ・ジャンクーがインタビューする。浮かび上がるのは、ここ70年の中国社会の変遷だ。

●「平静」(中国) 

 ソン・ファン監督。主人公の女性は、東京から越後湯沢を経て、香港に旅する。友人や家族との会話から、自らの「平静」を取り戻していく。

●「逃げた女」(韓国) 

 ホン・サンス監督。ヒロインは、夫が留守のあいだに、3人の女ともだちを訪ねる。女性たちの会話に潜む雰囲気が、何とも親密で、多くを物語る。

●「水俣曼陀羅」(日本) 

 原一男監督。水俣病の患者たちの裁判の行方を、15年に渡って追いかけたドキュメンタリー。編集に3年間、上映時間は6時間9分。原一男の力作だ。

●「仕事と日(塩谷の谷間で)」(アメリカ、スウェーデン、日本、イギリス)

 C・W・ウィンター、アンダース・エドストローム監督。舞台は京都の山あいの村。加瀬亮が出ているが、大半の出演者は、じっさいに村に住む人たちだ。約1年間、村に住む人たちの暮らしが綴られる。上映時間8時間の大作。

 開催の終了後になるが、11月22日(日)の朝日ホール、11月26日(木)から28日(土)のアテネ・フランセ文化センターでの特別上映がある。今回は、マノエル・ド・オリヴェイラ監督の「繻子の靴」(ポルトガル、フランス)。ポール・クローデルの同名戯曲の映画化で、大航海時代、騎士と人妻の許されない恋を描いた6時間50分の大作だ。

「特集上映」は、エリア・スレイマン監督作品。特別招待作品でクロージング作品の「天国にちがいない」の監督エリア・スレイマン作品が3本、上映される。

●「消えゆくものたちの年代記」(パレスチナ) 

 スレイマン監督の長編デビュー作。市井の人々のふだんのスケッチから、政治や社会への痛烈な風刺がみてとれる。

●「D.I」(フランス、パレスチナ) 

 イスラエルとパレスチナに分断されたなか、パレスチナ人のカップルを通して、中東問題へのギャグと風刺が、ユーモアたっぷりに描かれる。

●「時の彼方へ」(パレスチナ、フランス) 

 スレイマン監督の父は、イスラエル建国の1946年に、パレスチナ抵抗勢力のメンバーだった。母は、父と離れて暮らさざるを得ない。そして今、スレイマンは、パレスチナを訪れる。複雑なパレスチナ問題に迫るスレイマンの自伝的作品。

 以上、全29本。もうめくるめくような作品ばかり。今年は、東京国際映画祭とほぼ同じ日の開催となる。映画ファンは、体がいくつあっても足りないが、うまく予定をたてて、ご鑑賞ください。詳しいスケジュールは、公式サイトをご覧ください。


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