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今週末見るべき映画「薬の神じゃない!」

 ――2014年、中国で、ジェネリック医薬品の密輸入事件があった。慢性骨髄性白血病の患者だった陸勇が、インドから安い価格の抗がん剤を密輸入し、同じ患者に販売したことで、陸勇は起訴される。


 映画「薬の神じゃない!」(株式会社シネメディア配給)は、この事件を基に、上海を舞台にしたフィクションだ。白血病患者を取り巻く現実と、安価な治療薬を、認可していないという理由だけで、ニセ物と決めつけて取り締まる側の攻防が、ほどよい笑いをまぶして、巧みに描かれる。痛快なほど、元札が飛び交うシーンは圧巻だ。


                 (2020年10月13日「二井サイト」公開)


 2002年の上海。怪しげなインドの強壮薬を輸入して販売しているチョン・ヨン(シュー・ジェン)は、寝たきりの父親を抱え、妻と別居。幼い息子は、妻のほうで引き取る話が進んでいる。怪しげな強壮薬は、なかなか売れず、家賃は滞納している。


 ひょんなことから、チョンの店に、血液のがんといわれている慢性骨髄性白血病の患者、リュ・ショウイー(ワン・チュエンジュン)が訪ねてくる。正規価格で売られているスイス製のグリニックという薬は、一瓶3万7000元(1元は約16円)と高価である。リュは言う。「同じ成分で、同じ効果のあるインドのジェネリック薬のグリニックを買って来て欲しい」と。


 正規のグリニックの、ざっと20分の1の2000元で仕入れることができる。これを、一瓶5000元で売れば、かなりの儲けになる。


 はじめチョンは、むげに断ったものの、父親の症状がひどくなる。まとまった金が必要になったチョンは、インドまで、リュの言うグリニックを買いに出かける。そこで、安価なグリニックを仕入れ、船便での密輸入に成功する。


 ところが、なんでもニセ物の横行する国である。3万7000元のグリニックを5000元で売りますと、患者の家を訪ねての販売は、「そりゃニセ物だ」と、ことごとく拒否される。


 リュの知り合いの女性で、やはり幼い娘が白血病のリウ・スーフェイ(タン・ジュオ)は、ポールダンサーをしながら、白血病患者たちのネットコミュニティの掲示板の管理人をしている。リウがネットで情報を流すと、なんと大勢の患者が、チョンの店にやってくる。


 たちまちグリニックは売り切れる。インド側との交渉には英語が必要である。やはり患者仲間で、怪しげな英語を話すリウ牧師(ヤン・シンミン)を仲間に引き入れる。不良少年のボン・ハオ(チャン・ユー)も患者である。薬を盗もうとしたことがきっかけで、仲間に加わる。リウ牧師の怪しげな英語でも、インド側に通じる。大量のグリニックを仕入れることで、代理店契約まで交わすようになる。

 グリニックは、さらに飛ぶように売れる。連日、チョンたちのところに、大量の元札が入ってくる。


 正規のグリニックを販売しているスイス側の代理店が、警察に取り締まるよう、訴える。認可のない密輸品は、ニセ物との判断を下し、取り締まりが始まろうとする。


 警察の動きを察したチョンは、すでにかなりの儲けを得ていて、他のニセ薬業者に権利を売り払い、グループを解散する。ニセ薬業者は、価格をつり上げ、とんでもない悲劇が起こる。いまや、中国全土から、グリニックを求める患者の叫びが、チョンに届くようになる。そして、チョンは、ある決断をすることになる……。


 登場人物たちの、それぞれの事情や背景が、過不足なく、巧みに描かれる。難病と闘い、薬を手にいれようと群がる患者たちの生態や、必死の想いもまた、丁寧に描かれる。

 映画のタッチは、いささかドタバタふうのコメディだが、高価な薬をめぐっての国の政策のありように、痛烈な疑問を投げかけ、ドラマの底流は、シリアスそのもの。


 2年前、中国で公開され、共感を呼んだのか、500億円超えの大ヒットとなったらしい。


 監督、共同脚本は、1985年生まれのウェン・ムーイエ。これが長編第一作である。医薬品をめぐる中国の実情に踏み込んだシリアスなテーマを、ほどよいアクションシーンを交え、あざやかなエンタテインメントに仕上げた。その力量に、中国映画界の層の厚さを感じる。


 主演のチョンを演じ、製作者にも名を連ねたシュー・ジェンは、別居中の妻から「男のクズ」とまで言われるダメ男が、見事に変身する様を軽快に演じる。ことに、荒っぽい物言いではあるが、きめ細かい人情味を見せての力演だ。監督作もいくつかある才人。


 練れた脚本と、行き届いた演出に、俳優たちが応える。こなれた日本語字幕は、大ベテランの水野衛子さん。中国映画の底力が堪能できる。


☆ 2020年10月16日(金)~ 新宿武蔵野館、池袋シネマロサ ほか 全国ロードショー

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