友人Mさんへの手紙―第33回「東京国際映画祭」回顧
お元気ですか。今年の東京国際映画祭も、さぞたくさん、ご覧になったことでしょう。
今年は、東京フィルメックスと会期がほぼ重なったこともあって、東京国際のほうは、多くの作品を見ることは出来ませんでした。コンペティション部門がなくなり、予想する楽しみが消えました。
代わりに、「TOKYOプレミア2020」部門の31作品から、観客の投票で、観客賞を選ぶということになったそうです。いままでのように、コンペ作品を見た後で、これがグランプリだとか、この俳優が賞をもらうんではないかといった楽しみが無くなってしまいましたね。
で、すでに試写がスタートしている作品も含めて、例年通り、見た作品の評価(AからDの4段階)と感想を記します。以下に。
B) 「HOKUSAI」(日本)
橋本一監督。クロージング作品。北斎の若かりし頃から晩年までを描く。若き日を柳楽優也、晩年を田中泯が演じる。浮世絵の版元、蔦屋重三郎と、絵師の歌麿、写楽、北斎の4人が吉原で一堂に会するシーンは圧巻。橋本演出は、「探偵はBARにいる」ころより、円熟味が増したようで、安心して見入りました。
B) 「二月」(ブルガリア、フランス)
カメン・カレフ監督。辺境の山地で生きる男の三世代に渡る人生を描く。その人生は、孤独そのもので、辺境の地でなくても通じるテーマでしょう。
B) 「新 感染半島」(韓国)
ヨン・サンホ監督。大ヒットした「新感染 ファイナル・エクスプレス」の4年後。大金をめぐって、兵士ジョンソクは、半島に戻ってくる。後半の凄まじいカー・アクションが見ものだが、老人の動体視力が映像についていけない。
A) 「燃ゆる女の肖像」(フランス)
セリーヌ・シアマ監督。ブルターニュの孤島を舞台に、富豪の娘と、彼女の肖像画を描こうとする女性画家との愛が、もどかしくも美しく紡がれる。古風な室内や、荒涼たる自然が、これでもかとの映像で描かれ、その美しさに息を飲むよう。
A) 「親愛なる同志たちへ」(ロシア)
アンドレイ・コンチャロフスキー監督。1962年、旧ソ連での最大の労働者デモと、その背景がとてもリアルでした。「暴走機関車」や「映写技師は見ていた」などでおなじみの監督ですが、まさに職人技。役所勤めで共産党員の母親と、デモに加わろうとする娘の造形が見事でした。
B) 「ラヴ・アフェアズ」(フランス)
エマニュエル・ムレ監督。男と女が愛の種々相を語り合う。さまざまな愛の形が登場。いかにものフランス・ラヴ・コメディで、欲望と愛情の微妙な相違を、巧妙に描いていました。
A) 「第一炉香」(中国)
アン・ホイ監督。アイリーン・チャンの原作小説の映画化。上海事変後の香港を舞台に、裕福な一族の女性が、社交界に出ていく過程がきめ細やかに描かれる。クリストファー・ドイルのカメラ、坂本龍一の音楽、ワダエミの衣装と、豪華なスタッフだ。リャン夫人を演じたユー・フェイホンが圧巻の演技。
B) 「メコン2030」(ラオス、カンボジア、ミャンマー、タイ、ベトナム)
ソト・クォーリーカー、アニサイ・ケオラ、サイ・ノーカン、アノーチャ・スウィチャ―ゴーンポン、ファム・ゴック・ラン監督。2030年の近未来。メコン川を舞台に5カ国の監督が、それぞれのメコン川を撮る。環境の悪化、地域に根差した風習などの10年後を想像した監督たちの発想は豊か。
A) 「人情紙風船」(日本)
山中貞雄監督。原作は歌舞伎の「髪結新三」。舞台は江戸の深川。やがて破滅に向かう人の業がくっきり。山中貞雄の遺作が、4Kデジタル修復版でよみがえったのは快挙ですね。
A) 「ディリリとパリの時間旅行」(フランス、ベルギー、ドイツ)
ミッシェル・オスロ監督。すでに一般公開されたが、映画祭では「TIFFチルドレン」部門での上映となった。ベルエポックのパリに、作家や芸術家など、さまざまな著名人が登場する傑作アニメーション。若い人には、ぜひ見て欲しいと思いました。
以上、わずか10作品でしたが、どれも満足でした。願わくば、来年の会期は、フィルメックスと重ならないこと。また、プレス上映の上映間隔をあけて欲しい。次の上映までの時間が短いので、やむをえず、エンドクレジットの途中で退席せざるを得ませんでした。
コロナ禍ゆえで、いろいろと制約があった上での開催だと思いますが、来年もまた、無事に開催して欲しいですね。
東京国際で見られなかった作品でも、今後、一般公開される作品も多くあるはずです。いいなあと思った作品は、順次、レビューを書いていこうと思っています。その折りには、メールなどでご連絡しますね。
また来年、六本木でお目にかかりましょう。どうか、お元気で。
11月24日
二井 康雄
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