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年末年始見るべき映画 その1の1「ハッピー・オールド・イヤー」

 お元気でしょうか。世紀の愚策、一連のGo Toなんとかに加担して、感染拡大に協力するより、年末年始は、黙って映画館で映画を見ることをお勧めします。

 毎年12月には、優れた、面白い映画が、たくさん公開されます。「年末年始見るべき映画 その1」は、12月11日(金)に公開される3本の映画を紹介いたします。


●「ハッピー・オールド・イヤー」

 (ザジフィルムズ、マクザム配給)

 大ヒットを記録したタイの映画「バッド・ジーニアス危険な天才たち」の製作スタジオの新作だ。


 主演もまた「バッド・ジーニアス危険な天才たち」で、女子高生のリンを演じたチュティモ・ンジョンジャル―ンスックジン)で、タイのバンコクに住むデザイナー、ジーンに扮する。


 ジーンは、スウェーデンで、ライフスタイルに関連したデザインの勉強をして、バンコクに戻ってくる。

 ジーンは、音楽教室を兼ねた小さなビルに、母親(アパシリ・チャンタラッサミー)と、自作の服をネットで販売している兄のジェー(ティラワット・ゴ―サワン)と住んでいる。


 音楽教室は、かつて父親が経営していて、いまはビル全体が、いろんなモノでいっぱいだ。ジーンは決心する。ここを北欧ふうのデザインの仕事場に改装しよう、そして、不要なモノを整理しよう、と。


 母親は、そもそも改装に反対で、兄は全くの無関心だ。

 内装のデザインは、ジーンの親友ピンク(パッチャー・キットチャイジャル―ン)に依頼する。ピンクは言う。「予定通りに改装するなら、年内に家をからっぽにすること」と。今日はもう11月25日。小さなビルとはいえ、あちこちにモノがあふれている。はたして一ヵ月で、整理できるのか。


 ジーンは、断捨離に取り掛かる。本や雑誌、CDなどなど。大物は、家出をした父の残したグランドピアノだ。処分しようとするが、母親が大反対。いまだ父のことが忘れられないのか、「勝手なことをしないで」と大反対だ。

 ピンクがやってくる。昔、ピンクがジーンにプレゼントしたCDまで、処分されようとしている。怒り出すピンク。ジーンは、借りたり、プレゼントされたいろんなモノを、捨てるのではなく、当事者に返そうと思い立つ。


 昔のボーイフレンドのエム(サニー・スワンメーターノン)から借りたままのカメラが出てくる。ジーンは、カメラをエムに返送するが、なんと、受取拒否で戻ってくるではないか。意を決して、ジーンはエムにカメラを直接、返却しようと、エムを訪ねる。そして、ここから、ドラマは大きく動き出していく。


 まだ若い女性ジーンの、だから短い時間ではあるけれど、モノを通してのさまざまな記憶や、かつての出来事がよみがえってくる。ジーンの心の動きが、鮮明に伝わってくるシーンが続く。劇的な事件は起こらない。しかし、エムを訪ねたことで、ジーンにとっては、ほどほどの事件が起こることになる。


 今、筆者の足元には、本棚からはみ出した本が、たくさん積んである。見るたびに、手に入れた時の記憶がよみがえる。本だけではない。目の前にあるペーパーナイフは、学校を卒業するときに、後輩にもらった。ノンページの本で使用することはないが、封筒を開けるときに使う。使うたびに、後輩はいまどうしているのかなと、ふと思う。


 映画「ハッピー・オールド・イヤー」は、馬齢を重ねた身には、単なる懐古趣味を超えた記憶そのものがハッピーであり、さらに未来を推進する可能性を示唆してくれる。派手さはないけれど、すてきな映画だなあと思う。


 監督は、ナワポン・タムロンラタナリットではないか。2013年の東京国際映画祭で上映された「マリー・イズ・ハッピー」や、2014年のやはり東京国際映画祭で上映された「36のシーン」の監督だ。

 一般公開は、たぶん、この「ハッピー・オールド・イヤー」が最初だろう。すでに、7作品ほどの実績がある。遅れてでもいいから、特集上映などでの一般公開が望まれる。



2020年12月11日(金)~ シネマカリテ、ヒューマントラストシネマ渋谷ほか全国順次ロードショー

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